スペイン小学生事情  その1

息子はこの5月からはれてスペインの小学生になった。

毎日、リックサックを担いで通っている。

ところで、スペインでは登校、下校の送り迎えは親の義務になっているようだ。
日、その時間になると学校の周辺には親が集まり、井戸端会議ならぬお喋りの渦・・
先生を見つけると我先にと駆け寄る、その上、子供が出入りする・・ので登下校時の 学校の出入り口はものすごい混雑だ。もっとも、こちらでは日本のようなPTAは存在 しないらしいので、情報交換はもっぱらそのときに行われる。

息子の学校はカトリック系の私学だが、そんな喧騒の中、先生は生徒を入り口の中に 留め置き、親の顔を確認した上、ドアの外に出す。熟練の技術だ。もっとも息子と私 は学校ただ1組の日本人のうえに、たまたま学校には中国系の生徒もいないので、一目で わかるとおもうけど。

ところで息子の学校探しには結構、苦労した。スペイン語が不充分な上に、スペインの 小学生事情を知らなかったものだから、とくに大変だった。スペインでは、春の連休あけ に、各学校の新学期からの新規申し込みが始まる。新学期は9月なので、息子のように 日本で学年を終わらせてきても、次の学年にあがるまでは、半年余裕があることになる。

たまたま、私達の住んでいるマンションの同じ通りに学校があり、私は単純に『近くて
良いなあ』と思っていた。同じマンションの子供も、何人かそこに通っているようだっ たし、勝手に息子の学校はそこだ!と決めていた。

というのは、マンションの大家の子供
達(といってももうオジさん、オバさん)もその学校の同窓生なので、大家のカルメン
「私、校長とは友達なのよねー、話といてあげるから心配無い、心配無い」
また、
たまたま知人が住んでいるマンションに、孫がその学校に通っている・・と言うおばあ さんがいて
「今度、日本人が入ることになったからって、もう学校には伝えといた
わ」
といってくれるはで私はぜんぜん安心しきっていたのだ。(だいたい、スペイン人
は親切でおせっかい焼きが多い。)

そこで申し込みの1ヶ月前くらいに「ま、挨拶に・・」くらいの軽い気持ちで、学校を 訪ねた。ところが、
「この学校は申し込みが多くて、欠員待ちも多いのです。学校は
1クラス25人と決められていますので、入学は難しいでしょう」
と言うのだ。
「この
近くには私立も公立も学校はあります。他をあたったらいかがでしょうか?」
とまで
言われてしまった。

「えー。そんな・・」
今まで何も考えていなかった私はショック
を受けてしまった。というわけで息子の学校探しが始まった。仕方がないので近くの 公立学校に行ってみると
「申し込みは4月23日から。当日申込書に記入して出し
て。」
ととっても事務的。おそるおそる『あのー。絶対は入れるんでしょうか?』と
聞くと
「それはわからない。でもこの地域には他にも公立があるから、たぶんどこかに欠員 があると思う。」

スペイン人が絶対・・と先のことを言ったら日本ではたぶん・・だし、多分と言った ら無理に近いと言うことをすでに知っていた私は内心あせった。

周りの日本人にリサーチしてみたところ、インターナショナルスクールはいつでも O.K、 もちろん日本人学校もそうだ。ところが日本人学校にしても他のインターナショナル にしても異常に月謝が高い。私の給料より月謝の高いところもあったくらいだ。

そうこうしているうちに申し込みの日がやって来た。

私は公立の申込書を記入していたが、事務的な態度や「スペイン語がわからないので 「なれる為に1日一時間でも通わせてくれないか?」と聞いたときに「それはやってい ない」と相手にされなかったことも引っかかっていた。

もちろん実際には登校してみなければわからなかったことだが。

それで「だめ元」と思って近くの私立に行ってみた。確かに順番待ちの父兄で狭い ホールはごった返していた。その上、スペインじゃ整理券なんて便利なものをくれる わけじゃないし、きちんと並んで待つなんて国民性も持ち合わせていないので、次に 来た人はまず 、「なんていっぱい!」と嘆いてから「で、最後はだれなの?」と声を張り上げる。

「私よ!でもその前はこの人!」と返事がどこかからあがるが、どうした具合か「違 う、違う、あんたの前は私よ!」なんてことになって当人同士が大声でやりあう。
大事な子供のことでもあり余計気が立っているのかもしれない。

私はまず壁に張り出してある今年の募集要項を見に行った。

息子の学年は募集数ゼロ。
でもひとつ下の学年には4人、とある。
どうせ言葉もわからないし1つや2つ歳が違っても関係無いし、第一私はこの学校の
やさしげな雰囲気に引かれていたので行列の最後に着いた。
幸い、私の前はとっても品の良い奥さんで、何やかやと話し掛けてくれたり、横入りし ようとするおばさん達を上品に撃退していた。

さんざ待った挙句に、校長室で状況を訴えると
「あなたがたのことは、いろいろな人から
聞いて知っています。しかし残念ながら、スペインの決まりでその年齢の子供しか取 ることはできない。でも、この学校には、この近くに姉妹校があり、そこに息子さんの学 年で欠員がある。これを持って、そこにすぐ行きなさい」
とさらさらと紹介状を書いて
くれた。

かくして私はその紹介状を持って、近くの姉妹校に走った。

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