スペイン小学生事情  その2

紹介状を持って学校に行ってみると、学校はなぜか閉まっていて誰もいない。

出鼻をくじかれた思いの私は、とぼとぼと家に帰り、作戦を練った。
まずは、学校が絶対に開いていると思われる朝を狙っていくこと。だれかスペイン 語が達者な助っ人を頼もうかと思ったが、言葉の不自由な私が泣き落としに出た ほうが、有利な気がしてやめておいた。

さて翌日、学校に行ってみると、校長であるシスターのマリア・ドローレスは
「よ
くきた。よくきた。」と歓待してくれた。前の学校から連絡がいっていたらしい
入り口で息子の入学を嘆願すると、『ちょっと待って』といって学校の中に消え、 1枚の小さな紙を持ってきてくれた。「ここに入学に必要な書類のリストがあり ます。早めにそろえて提出してね」
たったこれだけの立ち話で息子の入学は決
まった。

あまりのあっけなさに呆然としてしまったが、
「息子はスペイン語が1つもわからない。
それでも入学させてくれるのか?」と聞くと、「ここは学校です。学ぶ為に 来るのだから」と言う返事。
そこで、新学期の前に少しでもなれるように、学校にか
よわせてくれないか? と重ねていってみると、「問題ないと思うけど、一応先生に聞いてみる」と言って くれた。

返事は2、3日中にと言うので、あらためてアポを取って、スペイン語の助っ人と 共に学校を訪ねることになった。

結局、息子はその日から学校に通うことになった。
後で同行してくれた友人と話したのだが、学校が私学で小さかった(なにしろ1 学年1クラスしかなく、息子の学年は17人しか居ない)ことが幸いしたよう だ。

それから『クリスチャンですか?』と聞かれたときに、私が「違うけれど、息子は
週1回教会に通っていた」と答えたのもよかったのでは・・という結論に達し た。この教会通いとは、息子がたまたま、教会の運営するボーイスカウトに通ってい ただけのことなのだが、言葉のできない私は、そこまで正確に伝えられなかった?

そんなわけで息子は毎日、元気に言葉もわからない学校に通っています。
でも、息子は学校中のみんなに名前も覚えられて、あちこちから声をかけられ、ま んざらでもなさそうです。

ためしに「さっき声をかけて来た可愛い女の子は誰
?」と息子に聞くと
「しらない。だってみんなはぼくのこと知ってるけど、ぼくはしらないもの。」 だって。
そうそう、スペインでは「こどもがおなかをすかせるとかわいそう」というので、お やつを持参し、休み時間に食べることを許されている。
この前、息子は日本のお
ばあちゃんが送ってくれた「都こんぶ」を持って学校に行った。息子に聞くと 、『誰も欲しがらなかった』そうだ。

この顛末をスペイン人の友人で、やはり息子と同じ歳の息子をもつ男性に話して聞 かせると、「みや! 君はなんて強いんだ! そして息子がかわいそうだ!」といわれ てしまった。 「どうして?」と聞き帰すと、「だって、言葉も解らないのに学校に通わせて、彼が トイレに行きたくなったって、行けないじゃないか!もし、それでもらしてし まったら笑われてしまうよ! あーなんてかわいそうなんだ!」と真剣に嘆くので す。

大丈夫です。いくら言葉を知らないといっても、「トイレ」という単語は教えてあり ます。
ちなみにその件を息子に尋ねたところ、はじめて学校に行った日に先生が、「ここ がトイレ、ここが教室」と案内してくれたそうだ。