シベリアからの寒波



この冬は大寒波の影響でスペインは異常な寒さだ。
1月に雪がちらほら降っていたが、下旬にはシベリアからの大寒波に襲われ、各地で最低気温を更新。マドリッドも一夜にして凍りついた。シベーレスの噴水からはツララが下がった日もあり、マイナス5℃を記録した・・とニュースで聞いて「うそだ!」と叫んだのは私だけではないだろう。

その後、2月のはじめにはいきなりの落雷とともに雹が降った。
その日は日曜日、昼食が終わってのんびり食休みをしていた午後4時ごろだった。
時間にすれば30分ほどだったと思うが、積るほどの雹が降るのを見たのは、初めてのことだ。悠もびっくりしながらデジカメで写真を撮りまくっていた。
そのとき私は「これでスペインも春になるんだわ」と思い、大きく伸びをしたい気分になった。

ところが、予想は大きく外れてその後、スペインはその後も寒波に見舞われ続けたのだ。
いたるところで雪が降り、特に北は道路が雪のため寸断され、学校は軒並み休校になった。
寸断された道路のおかげで道路脇に止まったままの大型トラック、雪の中を足早に急ぐ人々、学校が休みなので雪の中で遊ぶ子供達など、今年は毎日同じ光景ばかりがテレビで流れていた。普段は夏のイメージしかないアンダルシアの人達も厚着をして凍えていた。そういえば夏に行ったマジョルカ島のあるバレアレス諸島も雪が降ったらしい。

マドリッドもそりゃ寒いです。何しろ町じゅうが石でできている上に乾燥しているから身体の芯から冷えてくる。こういう芯から凍える寒さは日本では感じなかったなぁとつくづく思う。

ところで私のマンションはありがたいことにセントラルヒーティングなのでとても暖かい。というか、その時期になると強制的に決まった時間に暖房が入る。温度の調節もできないので暑すぎることもあり、管理人のアントニオに「暑すぎるんだけど」というと「窓を開けたらいいよ」といわれたものだ。でも、この冬は暑くて窓を開けるという事はほとんどなかった。

ところが、この寒さだというのに私の職場にはろくな暖房がない。去年までは机の下に置いて足を暖める温風器の小さいのを一人あたり一台支給されていたのだが、今年はほとんど使うことができなかった。なぜかというとパソコンのせいだ。会社のパソコンが電圧不足でピィーピィー警戒音を出すのだ。すると自分のことが一番大事なスペイン人は私に言う「みや、そのヒーター切って」。それでも警戒音が止まらないとようやく自分のヒーターを切る。

おまけに事務所は寒い午前中に日がささない。仕方がないからコートを脱がずに鼻水をたらしながら仕事をすることになる。手も冷たいのに冷凍の商品を出し入れしなくてはならない。仕方がないから手袋もはめたままだ。社長のハイメに何回か「暖房がないと寒い」と訴えたことはあるのだが、もとがケチな彼は「電気の容量が・・」とか何とか言って逃げる。電圧だの容量だのが足りないなら増やせば良いのに・・と思うが、面倒な上にお金を払いたくないので見てみぬふりをしているのだ。

あるとき、彼自身は寒くないのだろうか・・と彼の机の後ろに回ってみたら自分だけ倉庫の方から線を引いてヒーターを使っているのを発見してしまった。なんて奴だ。
見かねた兄のホセ・ミゲールが「暖房くらい入れなくちゃね」といったのだが、「食料品のためにはこのくらい寒いほうがいい」とほざいた。本当に憎たらしいったらない。
この冬に商談にきたお客さんたちは、誰もコートを脱ごうとしなかった。ご苦労様でした。

そして、いくら言っても聞かないハイメにあきれて、私も何もいう気がなくなってしまった。ホセ・ミゲールが再度、「やっぱり暖房が必要だよね、みや。」と言った時も「いっそうのこと暖炉にしてよ。燃やすダンボールはいっぱいあるんだからさぁ」と話に乗らなかったくらいあきれていたのだ。
そのうち暖房必要派のホセ・ミゲールが大風邪をひいて倒れてしまった。
彼は営業担当で外回りと配達ばかりだから事務所に暖房がないせいではないとは思うのだが、奥さんのモニカに言わせると「暖房がないから」だそうだ。

開き直った私は「上等じゃん。大風邪ひいて休んでやる!」と思っていたのだが、あいにく今のところ休むほどの風邪はひいていない。
こう寒さが続くと顔はくちゃくちゃになり、ますますふけ顔になる。寒いから肩をすぼめて歩くので、ますます猫背になり肩もこる。寒さをしのごうと、なりふりかまわずいろいろなものを着込む。ババシャツだろうがタイツの重ね履きだろが、かまいやしない。そして、私のばあさん化がますます進むのだ。

そんな私の今年の必須ファッションアイテムは、悠に言われせると「ねずみのコート」と「狸の手袋」だ。ねずみのコートとは、去年の冬のバーゲンで買った軽いダウンのコートで襟とそでに毛皮がついている。ふわふわの毛皮はウサギだと思うのだが、黒に近いこげ茶色なので、どぶねずみのような色・・といえない事もない。だから「ねずみのコート」と言われても「なるほど」と納得してしまい怒ることができない。

手袋は2年前に革の手袋が欲しくて、さんざん探して手に入れたツートンカラーだ。
手の甲がベージュで手のひらは黒、なかなかおしゃれだと思ったのだが、「いいでしょう?」と悠に見せたら「狸の手袋」と切り捨てられてしまった。
せめてものボロかくし、と、コートと手袋でおしゃれしたつもりだったのに。

こんなマドリッドにもようやく春が近づいてきたようだ。
3月の2週目からは午後になると暖かい日に包まれ、暖房なしでもふつうに過ごせるようになってきた。日も延びて事務所を出る午後7時でもまだ薄明るい。
そういえば春の祭りでもあるセマナ・サンタ(聖週間)ももうすぐだ。
そして、忘れられないマドリッドのテロ事件から1年が過ぎようとしている。