クレマ・カタラン


先週の金曜日、待ちに待った料理用のバーナーを手に入れた。
ガスを充填して使うタイプのもので、料理やお菓子に焼き色をつけるのに使う道具だ。
最近のマドリッド、日本レストランのいいお店では寿司の焙りがはやりだ。
メニューを見ると「焙りできます」と書いてあったり、焙りを施した巻き寿司などがある。
この流行の仕掛け人は友達の寿司職人、遠藤くんだ。

それはともかく、初めてメニューに「焙り」と書いてあるのを見たとき、私は炭を使った七輪を使うようなイメージを持っていた。実際に彼の仕事をカウンターで見ると工事に使うようなガスバーナーの小さいので表面を焼くのだ。
新しいキッチン用具に目のない私はこれがほしくて仕方なかった。
さっそくマドリッドでも有名なキッチン用品の店に行ったのだが、ドイツ製のそれはとても高かった。なくても何の支障もない・・とわかっているだけに、すぐに買うわけには行かず、しばらく逡巡していたのだが、レストランのオーナーをしている友人が「なーんだ。近いうちにレストラン用品の専門店に行く用事があるから、買ってきてあげる。そこなら安いよ」といってくれた。恐る恐る値段を聞くと私が見たものの3分の2くらいの価格だ。これなら買える。
そしてこのバーナーはうちにやってきたのだ。

さっそく週末にこのバーナーを使って見ることにした。
といっても寿司のあぶりをするわけではない。デザートを作るのだ。
スペインには日本でも一時はやった「クリームブリュレ」と同じような「クレマ・カタラン(カタルニア風クリーム)」というデザートがある。
これは町のレストランやスペインの家庭でも定番のデザートだ。ママプリンのようにインスタントのミックスも売っている。

ようはカスタードクリームなのだが、上に砂糖を振って焼きゴテで表面に焦げ目をつける。
15年も前に初めてスペインに来たときに買ったスペイン料理の本を読んでみると、焦げ目をつけるためにスプーンを焼いてコテの代わりにするようにと書いてある。
当時の私は、夫に頼んで焦げ目をつけやすくするために、安いスープスプーンをたたいて平らにしてもらい、使っていたことを思い出した。日本では専門の重い焼きゴテを買って使っていたのだが、重い上に熱くなるのに時間がかかりすぎるので、いつしかしまいっぱなしになってしまった。スペインに来るときも持ってきたのだが、私の家はオール電化なので焼きゴテを熱くすることができない。かくしてますます出番はなかったわけだ。
ところでこのクレマ・カタラン、私が今まで食べた中で一番おいしかったのは友達のアナのお母さんが作ってくれたものだ。たしか少々、ブランデーが香り付けに入っていた。

家庭的なデザートだから家それぞれのレシピがあるのだろう。そういえば以前の職場で賄いを作ってくれていたイザベルに「クレマ・カタラン」はどうやって作るの?と聞いたことがある。彼女は「みや、スーパーに行ってミックスを買っておいで。そしたら私が箱に書いてあるレシピを読んであげる」といわれて大笑いしたことがあった。
私はプリンのカラメルのように焦げた味が好きなので、こだわっていたのだが、焦げ目をつけずにマリービスケットをそのまま上に乗せて出すレストランもある。かなり緩めのクリームだからビスケットにつけて食べたりもする。私の場合はこの焦げ目をつけるために,バーナーを買ったようなものだ。

早速、この週末にクレマ・カタランを作ってみた。
仕上げにグラニュー糖をかけてバーナーを使うと面白いように焦げ目がついてくれる。
「早くきてー」と息子を呼んで実演までしてしまった。
考えてみると、この1月のバーゲンでは急成長した息子の洋服を買ったうえに、とんとおしゃれして出かけることもなくなってしまった私はほとんど何も買わなかった。
久しぶりに買い物をして、単純な私は充実した気持ちでいっぱいになり、はしゃいでしまった。

しかし私と違って冷静な息子には痛い一言を言われてしまった。
「きっとガスが切れたら、そのまましまいこんじゃいそうだね」
さすが我が息子だけのことはある。確かにしまいこんだままの調理器具、山ほどありますものね。しばらくは名誉回復のため、バーナーを使ってできるデザートや料理を考えてみよっと。

クレマ・カタラン
卵黄2個
砂糖大匙3
コーンスターチ大匙1
牛乳250CC
レモンの皮半分、シナモン少々

@ なべか火にかけられるボールに卵黄、砂糖、コーンスターチを入れて泡だて器でよく混ぜる。
A 別のなべに牛乳、レモンの皮、シナモンを振って中火にかけ、焦がさないように煮立てる。沸騰しそうになったら火から下ろして@に少しずつ加えてよく混ぜる。
B 混ざったら中火にかけとろりとするまでさらによく混ぜる。
C デザートカップなどに移してグラニュー糖をふり、焦げ目をつける。またはマリービスケットを乗せる。フィンガービスケットを添えてつけながら食べるなど。

ところで、シナモンが得意でない人は入れなくてもOK.。仕上がりはかなりやわらかいです。冷蔵庫で冷やしても熱々でも楽しめます。
アナのお母さんは仕上げにお父さんのブランデーを結構たくさん入れていましたね。