紛失事件


友達が日本の会社のカタログを見せてくれた。それは海外に住む日本人向けのいわば通販会社だ。カタログをみてFAXなどで申し込むと日本やその会社のあるアムステルダムから商品を届けてくれるのだ。

私は生活必需品でぜったいに日本の物!というこだわりはほとんど無い。よっぽど未開の地に暮らしたりしたら別だろうが「あれがあったらいいのに・・でもないから仕方ない」くらいで今まで過ごしてきた。だいたいどんなものでも代用はきくし、スペインにだって同じ様なものはある。食事に関しても日本食でなければ・・というこだわりもない。スペインには日本では食べられない美味しいものがたくさんあるからだ。

ただ、息子は私とは少々違っている。ともかく息子は日本食好きなのだ。もちろんなんでも良く食べるし、好き嫌いもないのだが「毎日、スペイン食はいやだ」という。
学校の給食も1年でリタイヤ、今は毎夏に行くキャンプで食べるだけでスペインの給食は十分だそうだ。

そんな息子と家では「日本のあれが食べたい。そうそう、こんなものもあったよね」と時々話す。息子は小さいときから渋好みなので、乾物類が大好きだ。さきイカや都こんぶ、豆好みを入れた自分専用の「乾物箱」を持っている。この入れ物は日本から持ってきたおせんべいの缶だ。

以前、友人が日本から遊びに来た。友人は来る前に「お土産を持っていくけど何が欲しい?」と息子に聞いてくれた。息子が「高野豆腐とさきイカが欲しい」と答えたので「おやじみたいだねぇ」とあきれられてしまった。
ところで、さっきの通販のカタログを見ると、ありとあらゆるものが載っている。値段は確かに高いが、買えないほどではない。ただ、スペインにはその会社がないので、アムステルダムからの運賃が余分にかかる。運賃は重さによって変ってくるが、表を見ながらまとめて注文したほう得である。私がカタログを見せてくれた友人に「このおせんべい、日本でも買ったことがあるわ。安い割に美味しいよ。」というと「私も食べたいと思っていたの。一緒に頼むと送料が半額になるから頼みましょう。」ということになった。日本から取り寄せて、アムステルダム経由でやってくるので、お届けは3ヶ月後ということだった。

それから彼女に会うたびに「おせんべい、楽しみだねー」と話していた。そろそろ3ヶ月が過ぎると言う頃、友達が「
でもね。あそこの会社って遅れることがあるのよ。遅れたら文句を言ってやるわ」と言い出した。「もしも遅れても、またそれが楽しみだよねー」などとおしゃべりしながら待っていたのだが、一向におせんべいが届く様子は無かった。業を煮やした友達がアムステルダムに問い合わせたのが、予定から3週が過ぎた頃のことだ。

その返事によると、すでに3週間前にはスペインに向けて発送したので、とっくの昔に私たちのおなかに入っていると思っていたそうだ。それから調べてもらったところによるとスペインから「2週間前に品物が紛失している」と言う返事が悪びれもせずに来たそうだ。もし苦情が来なかったら紛失にも気が付かなかったという事で、会社では慌ててスペインでの確認作業を始めたそうだ。

で、私たちのおせんべいはどうなったかというと、どうにもならない。スペインでは「紛失した」でことは終わってしまったからだ。ちなみに追跡した様子もないそうだ。
あのおせんべいは誰が食べたのか。配達のおじさんが食べちゃったのか、はたまたごみになってしまったのか・・。

どっちにしても悔しい!「スペインの運送はいい加減だ。だってこれはEMSという郵便局の輸送システムをつかっているじゃない。ってことは、郵便局自体がいいかげんなんだ。」とさんざん文句を言って友達とうさを晴らした。
結局、待望のおせんべいは再度、日本から送ってもらう事になった。到着の予定はあらたに3ヵ月後だ。

それから1,2週間後のことだ。日本から不審なメールが届いた。
発信者は私の友達だから、不審ではないのだが「引越しした?」というタイトルになっているのだ。「なんで??」と思いながらメールを開くと、EMSで私宛に本を送ってくれたのだが「あて先人に尋ねあたりません」というコメント付で帰ってきたそうだ。

友人は、私が引っ越してしまったのかと思ったらしい。あわてて「引っ越してないよ」と返信するとまたメールがきた。日本の郵便局がいうのには、友人の送ろうとした本は結構な重さがあったので、きっとスペインじゃ配送するのがいやで返品したのだろう・・というのだ。友達はスペインに住んだ事のある人だったので「スペイン人ならやりそうだ。くやしいからEMSにねじ込んで再度送ってもらう」と息巻いていた。おせんべいの件もあったから、「たしかにスペインならありそうだ」と私も思った。

スペインでは普通、小包は受け取る人が管轄の郵便局に取りに行くことになっている。自宅に来るのは「荷物が届いているよ」という通知だけだ。これは日本で航空便、船便、SAL便のどれで送っても引き取り方は同じだ。ポストに入るような小さなものなら直接自宅に着く事もあるが、日本のように大きさなどに規定があるとは思えない。今まで受け取った荷物を見てみると、小さなものに関しては、その時の配達人の事情・・今日は配達物が多いとか少ないとか、そんなことで決まるような気がして仕方がない。

ただEMSだと自宅まで迅速に届けてくれる事になっている。でも、安い航空便を使った方がよっぽど早い、ということも再三あった。また、スペインの郵便局は今まで自宅まで届ける・・なんて事はしなかったので、宅配なんてシステムは理解していないのでは・・と思われるふしがある。だから紛失しても知らん顔、荷物が重ければ「あて先に誰もいない」と言うのではないかと私は疑っている。

それにしても、おせんべいに本、どうしてくれるんだー!EMS!