アホ!

最近の私は、仕事をしている時に怒っている事が多いように思う。
怒る理由はあるにしても「なんでだろう?」と考えるとスペイン人の詰めの甘さと言うかいい加減さに腹を立てていたのだ。

私はもともとがアバウトな性格なので、そのせいで過去によく失敗をした。
失敗は公私にかかわらず、言って見れば人生全般でである。

仕事に関しては、どの職場においても失敗をしているので、これでも失敗を防ぐコツを少しは学ぶ事ができた。それに「今、これをしておかないと後で失敗するぞ」という勘が働くようになった。だから、時によって何度も確認をしたり、余計な仕事をふやす事もあるが、仕方がない。こうやってようやく普通の人並みの失敗くらいですむのだ。
それでも気を抜いて勘に逆らうと、手痛いしっぺ返しを食う事になる。いくつになっても成長しない私なのだ。
そんな私が言うのもおこがましいが、スペイン人はいい加減な上に、失敗を恐れない。これはさっき書いた勘うんぬんではなく、ふつうの常識範囲内でだ。

私は数ヶ月前からスペイン人だけの会社で働くようになったのだが、まだ見習いだ。それでも仕事をしていると「ちょっとまってよ。それじゃ後で困らない?」ということがままある。今は事務の仕事をしているのだが、日本でも事務系の仕事をしてきたから、仕事の流れは理解することができる。私は怠け者だから必要以上に仕事をしようとは思わない。仕事を次に進めるために必要だからするだけだ。スペイン人の場合、しばしばそれを怠り、同じ様な失敗を何度もする。何にしてもつめが甘いのだ。で、反省が無いから何度でも同じことをする。「だから、こうやれば良いでしょ」というと「今までそんなことしたこと無い!」と反抗する。しないからこそ失敗するのではないか、と言いたくなる。もう面倒な後処理はいやなので、私が自分でしてしまうと、いつのまにかそれは私の仕事になっている。「それはみやの仕事でしょう」と当たり前のように言われると本当に頭に来る。

またスペイン人は「○○だろう」という時にすべて良い方、つまり自分に都合の良いように解釈する。言って見れば超ポジティブなのだ。何事にもポジティブなのは精神衛生上とても好ましいが、仕事の場合は、結果が逆だった場合にまわりやお客に迷惑がかかるので困ってしまう。

この私もスペインに来て何度もそういう目にあってきた。「スペインの辞書には責任という言葉はないのか!」と怒鳴った事もある。が、仕事の上では、怒鳴られているスペイン人の同僚を見ていても、怒鳴られる場面には今まで遭遇しなかった。

それがなんと最近は怒鳴られる立場になってしまったのだ。自分がやったミスなら仕方がない。でもほとんど、いや100%がスペイン人の失敗の言い訳やお詫びをさせられるのだから勘弁して欲しい。人の詰めの甘さから怒られるのは、ちよっと・・いや、
かなり悔しい。

またスペイン人はおしゃべりだ。コミュニケーションを図るのはとても良い事だし、私はどっちかというとしゃべらない方なので、あれこれとしゃべるスペイン人を見るとうらやましくなる事もある。バルに行ってもすぐに話し掛けてくるスペイン人はたくさん居る。

でも、仕事の最中にそれをやりだすとすごく迷惑だ。銀行で長い列ができているというのに長電話をする。誰と話しているのか知らないが、仕事の話とは思えない。

また窓口に知人が来て、長々と話し出す。天気の話から人の噂話まで・・その間は手が止まるから長い行列は待つ事になる。そういう時、私はなるべく気にしないようにして何か他のことを考えている。いつだったか銀行員の長電話にキレたおばさんが「私はここの客なのよ!いつまでもそうして働かないつもりなら、支店長を呼んでよ!」と怒鳴った事があった。長い列のみんなもそう思っていただろうが、おばさんの剣幕に声も出ない。私もびっくりして展開を見つめていた。だが、それからは銀行員とおばさんの間で長電話より長いケンカが始まった。さんざんやりあった後、銀行員に言われてしぶしぶ出てきた上司は、支店長ではなかったので、またひともめ・・結局、支店長は現れず、列に並んでいた急ぎの人達は去っていった。おばさんがキレたのは良くわかるが、その何倍も時間がかかってしまった。

こういう時、「無駄になっても絶対に文句を言って筋を通した方がいい」という人と「無駄、無駄。しょせんスペイン人はヨーロッパよりアフリカに近いんだから未開なのよ」という人に分かれる。いずれもスペインで暮らす日本人の声だ。私は頭にきた場合は、かならず文句をいうことにしているが、解決に至った事は皆無。もし「悪かった」と言う言葉が聞かれたら、奇跡と思わなくてはいけないくらいだ。

また、仕事上で、好意で何かしてあげると、日本だったら「ありがとう」の他に「申し訳ない」というニュアンスが含まれると思う。しかし、スペインにはそれはない。盛大に「ありがとう」といった後は「もっと、もっと」と手を出してくる。仕事でいいアイデアを出してもあっという間に真似されて、さも自分の仕事のように振舞う。あまりにもあっけらかんとしているので、自分が何かおかしいのかと思うくらいだ。

こんな事でいろいろと悩むところが多かったので、スペイン在住の長いよしおさんに思い切って聞いてみた。よしおさんいわく「僕は20年も一人でそういうスペイン人を相手にしてきたから言うけど、みやさんの言う事はすべてその通り。それに、仕事の事でいえば、うまく立ち回らないと、アイデアでもなんでもみぐるみ剥がされちゃうよ」と物騒な事を言う。

今までスペインで仕事をする難しさをこんなに感じた事はなかったので、やっぱりスペインの会社に入ると違うなぁと思う。それだけスペインに近づいたのか・・とも思う。

違う日本人の友達にスペイン人の愚痴をメールしたら、
「私もスペインにいた頃 スペインは世界の王だった 500年も前の栄光を自慢するスペイン人に最後の頃はキレてましたよ ちょっと笑えるけどね」と返信があった。
本当に笑える。でもそのとおりだ。いつまでも自分は王様と思っている。
でも、最近は開き直りもあってこんな風に考えるようになった。

そう、仕事が生きがいの人もいるだろうが、私はそうではない。それに無理やり送り込まれたわけではなく、スペ
インが好きで生活しているのだ。なんだかんだ言ったってスペインが好きなのだ。
だから、頭にきた時は「ここはスペインなんだから、スペイン人のように考えなくっちゃね。」と思うようにしてみた。すると、怒らなくても客観的に物事が見えることも多いのに気が付いた。そしてスペインをもう少し深く理解できるかもしれない。

あのスペイン人の名誉のために一言書いておきますが、この範疇に入らないスペイン人もたくさんいると思います。ただし、私はまだ出会っていませんけど。