物価

スペインの通貨はECの統一通貨ユーロだ。
2001年にペセタからユーロに切り替わってからのスペインは、物価がものすごく上がった。その後、上がった物価は下がる事がない。

ペセタが流通していた時は、大体の目安として100ペセタ=100円と言う感覚をもっていた。バルでコーヒーやビール、ワインなどを一杯頼むと、80ペセタくらいが普通だった。お昼の定食は、だいたい700〜800ペセタ、主食といえるピストラというバケットのようなパンは1本で50ペセタというところだったろうか。これは給料にもいえる事で、もし10万ペセタなら、10万円の給料と考える事ができた。

うちでは家賃や食費など必要最小限の出費を考えると、それまでいただいていた給料はまずまずというところだったし、たまには贅沢もできるものだった。
ところが、ユーロに変ってからバルの一杯は1ユーロ、昼の定食で8〜9ユーロ、パンは70センチィモが相場だ。1ユーロが100ペセタというのなら問題ないが、1ユーロは166ペセタと換算されるから、考えてみるとものすごい値上がりだ。

町のレストランでメニューを食べる客層も、この値上げによってずいぶん変ったそうだ。今まではブルーカラーといわれる人たちが良く利用していた気軽なレストランに行くと、そこで食事をしているのはホワイトカラー、もう少し所得が上の層だ。では、ブルーカラーの人たちはどこに行くのかというと、バルでボッカディージョというスペインのサンドイッチで済ませる。そのボッカディージョも150ペセタだったのが2ユーロはするから約二倍になったわけだ。私は基本的には昼は家に帰って、先に食事を済ませて学校に戻った息子の残り物を片付ける事にしている。それでも仕事の都合などで、家に帰る時間が無いときは近くで外食しなくてはいけない。そんなことが続くと出費もばかにならない。だから一人のときはたいていバルでボッカディージョにコーヒーだ。

それ以外に、最近見つけた安い昼の外食は、中国人のやっているバルに行く事だ。そこだとラーメンなど一杯が3ユーロ前後で食べられる。それに1ユーロのお茶か水を頼むと合計で4ユーロになる。レストランで食べるより安いし、おなかもいっぱいになる。ところが、たまたまそこのカウンターでラーメンを食べていたときの事だ。後から入って来た中国人のおじさんが何やら中国語で注文していた。ややあって出てきたのはホカホカの大きな肉まん2個だった。テーブルのメニューを確認すると肉まんは1個が0.75ユーロだから2個食べてお茶を飲めば、2.5ユーロですむ。ますます安上がりだ。今度、私もやってみよっと。

なんだか淋しい話になってしまったが、物価の上昇とともに給料も上がればいいのだが、給料はそのままなのだから仕方がない。
私は、ペセタからユーロに変ったときから、今に至るまで、このユーロでの金銭感覚に慣れる事ができないでいた。これは私だけではなくて一般のスペイン人にも言えることだと思う。私の周りのスペイン人たちは、何かの値段を見ると「ペセタだといくら」という風に考える。デパートやスーパーに行っても、未だにユーロとペセタが両方表示してある。

そのうち、もともと細かくないスペイン人と私は、面倒なのでコーヒーだのパンだのしょっちゅう支払う物の金額を基準に考えるから、そのうち1ユーロ=100ペセタという数式が出来上がってしまった。そうするとものの値段を考えるのにすごく楽なのだ。
しかし、そうすると気が付かないうちにものすごくお金を使っていることになる。
ユーロに変ってしばらくは、その貨幣価値になれないせいで、自分の経済状態を理解することができないでいた。それなのに公共料金をはじめいろいろな諸物価は大幅に値上がりしていて、自分も気前よく消費していたわけだから、気が付くと以前にもまして貧乏になっていた。さすがに最近は、私の経済感覚もユーロに慣れて来たが。

物価高の影響で一番被害をこうむったのは、住宅費だ。例えば、今住んでいるピソも気に入ってはいるが、大きくなった息子と2人だと手狭になってきた。そろそろ引っ越したいと思ったが、家賃も大きく上昇して私のピソの家賃は、50%アップだ。ただ、普通は入ったときの契約だから、私のところはペセタの頃に契約した家賃のままだ。今の家賃を払っても、とてもではないが同じところには入れないのだから、今より広いところに引っ越すのは無理と言うものだ。仕方がないから引越しもあきらめて、待機しているほか無い。

賃貸だけではなく、分譲もひどく値上がりした。スペインに来た当初は「がんばれば買えるかな」と思っていたが、現在は「宝くじでもあたらない限り無理」に変ってしまった。それでも、一度だけ中古の分譲ピソを見に行った事がある。今より少し広いとはいえ「ここに住むのは賃貸でもいや」と感じたので、早々に断ってしまった。業者は「お買い得ですよ」としきりに言っていたが、数年前だったら半額以下で買えただろう。一緒に行った友人もあまりの値段の高さに驚いていた。

この他、野菜などは物によっては40%もの上昇になった。
以前はさんざん買い物をしてふうふういいながら、野菜を持って帰るとだいたい500ペセタくらいのものだった。「スペインは野菜が安くて新鮮だなぁ」といつも感激していたのだ。ところが今はたった1,2キロのものを買うだけで3ユーロ、500ペセタはする。安いものを買おうと市場に行っても大したことはない。面倒だからと、スーパーやデパートで買うと2,3種類の野菜をパックしたのが3ユーロ近くする。

新聞によると、昨年の夏は、猛暑のため、ビニールハウス以外で栽培していた野菜がだめになり、それに加えて害虫にやられたためと業者は言い訳したらしいが、本当は、流通の過程でものすごいマージンがかかっているからだそうだ。そして、この野菜の価格の沸騰が諸悪の根源とも書いてあった。そういえば卵も結構値上がりしていたが、これは猛暑のため、にわとりが卵を産まなかったから・・と書いてあった。じゃ、今年は猛暑でなかったから値下げするのか・・といえばするわけは無い。
ユーロに切り替わるときにもいろいろなものが値上がりして「便乗値上げ」とずいぶん騒がれていたが、便乗どころかインチキ値上げだ。

一方、世論調査の結果によると庶民のほとんどが「生活が苦しくなった。」と感じ、約半数の人は「生活していけない」と訴えたそうだ。私だって訴えたい!だいたい日本より物価が安いというのもスペインにきた理由の一つなのに・・。

ついでに昨年の11月ごろには「クリスマス(年末を含め)乗り切るためには、今から心がけて海老やロブスターなどの高級生鮮魚類は質の良い冷凍物を買っておきましょう」などとも書いてあった。うちは二人にしてはまあまあの大きさの冷蔵庫があるが、早くからそんなものを入れて置くスペースはない。だいたい海老やカニは、年末は特に高くなるから我が家ではあまり食べない。そんなに高くなるのがわかっているのだったら、食べなきゃいいのに、と思わないでほしい。スペイン人は、クリスマスから年末にかけて「海老」を食べないわけには行かないのだ。大量のゆで海老がテーブルに乗ってこそ「ああ、クリスマスだ。年末だ」と感じられるのだそうだ。日本の「正月には餅」みたいな感覚だろう。

ところで、給料は上がらずものすごい物価高になって、いったい誰が儲けているんだろう?と給料の値上げ要求も含めて私の会社の社長、ハイメに聞いたら「お金はあるところにはあるんだよ」だって。