ご成婚


この前も書いたフィリッペ皇太子のご成婚は無事終了した。
前日の午前はものすごくいい天気だったのに、午後になると強い雨が降りだし、みんなで「明日は結婚式なのにねー」と話した。しかし基本的に晴れ女の私は、自分が結婚するわけではないが「明日になれば晴れるだろう」と勝手に考えていた。

ところが、当日は朝からどんよりした曇り空だ。
中世の絵を見ているような衣装のソフィア王妃と一緒に入場したフィリッペ皇太子は、新婦が到着するまでヴァージンロードの先に立って長い間待っていた。

中継のアナウンサーが間をもてあまし、婚約指輪のことから衣装のことなどあれやこれや話し、いよいよ「皇太子は心配顔です」と言うのを聞いて、息子は笑いながら「逃げちゃったんじゃない。いやになって・・」などと言い出た。この前、日本の皇太子妃がうつになって来西できないとニュースで報道されていたからだろう。中継を見ている私達もいいかげん嫌になった頃、ようやくレティシア嬢が到着した。後で聞くと、たっぷり新郎を待たせるのが新婦のしきたりらしい。

その頃、天気はますます悪化してアルムデナ大聖堂で式が始まると雷まで鳴り出した。でも婚礼の儀式はお伽話を見ているかのように美しく、また聖書の中にある物語のように厳粛だった。
新婦がダイヤのイヤリング以外、何もアクセサリーをつけていないのもとても新鮮だ。ドレスのデザインもシンプルで上品、中世のお姫様のようだ。

さて、式が終わり、二人が腕を組んで大聖堂の外に向かって歩き出したので、私と息子はあわててカメラを引っつかんで外に出た。いいタイミングで雨は止んでいた。
こういう時、うちの息子は嫌がらない。私がその年の頃は「そんなのダサい」とか言って絶対に母親について行かなかっただろう。もちろん母もそういうことを好まなかったとは思うが、息子は私の血を引いて実はミーハーなのだ。

しかし、私の家はグランビア大通りに垂直に交わっているのだが、その100mまえに2個所も検問があり、金属探知機で4人もの警官に囲まれて調べられたのには本当に驚いた。ようやく通りに出ると、今度は約5mごとに警官が立っていた。

ふと見ると、その中にマドリッド市のマーク付きポロシャツを着た若者達が扇子を配っている。そういえば、婚礼の十日ほど前に「ご成婚の時に18000個の扇子を配る」と言うニュースを聞いた。その時は「私もぜひ記念に欲しい!」と思ったのだが、どこでどんな風に配られるのか、それ以上の情報はまったくなかったので、あきらめていたのだ。扇子を受け取ろうと見物人が鈴なりになっているので、私達も負けずに入り込み、4ヶ所で合計7個もの扇子をゲットした。扇子もご成婚カラーに合わせて3色ある。

数日前からグランビア大通りもご婚礼カラーのピンク、黄色、銀色の3色に彩られている。スペイン広場からカジャオ広場までがピンク、カジャオからモンテラ広場までは黄色、そこからシベーレス広場を下るところは銀色がテーマカラーだ。

それにしても、ピンクと黄色はバラや菊を使ってクス玉のような飾りだったが、銀色は桜に良く似たアーモンドの造花が枝ごと飾られているだけだ。ピンク、黄色が派手で現代的な飾りなのに銀色はただ造花の枝が飾られているだけ、町内会の花見の飾りみたいだったのには笑った。

それまでは見物人と一緒に「まだ来ないなー。」などと気さくに話していた警官達に緊張が走り、ようやくパレードが近づいてきた。私はパレードに馬車を期待していたのだが、実際は天井もガラス張りになった車だ。新婚の2人が乗った車が通り過ぎる時、生で見た皇太子もレティシア妃も輝くばかりに見え、私は思わずため息をついてしまった。

息子と2人、散々写真を取りまくり、今度は家に走って帰り、テレビの中継でパレードやバシリカ・デ・ヌエストラ・セニョーラ・デ・アトーチャ大聖堂でブーケを捧げる儀式をチェックし「今度はどこに写真を撮りに行くか」を検討した。
結局、王宮に戻ってバルコニーから手を振る2人を生で見るのはあきらめて、王宮に戻るところを写真に撮る事にした。なにしろセントロと呼ばれる中心地はバスも地下鉄もすべてストップ。グランビア通りを横切る事も出来なかったからだ。

こうして、ご成婚一色の一日は過ぎた。テレビを見ていなかった人はすべて沿道にいただろう・・といわれるほどのマドリッド。フィリッペ皇太子のお膝元であるアストゥリアスでは町じゅうで中継を見入り、お祝いのパレードも行われた。
こういう体験はもしかしたら一生に一度のことかもしれない。私もその日は満足な気分に浸った。

ところで、翌日になると、「大通りの飾りのクス玉や大聖堂の外に惹かれていた赤い絨毯が切り取られ持ち去られた」という映像が流れていた。なんと情けないことだ。

それより何より、その後、すぐに発売された「HOLA」と言う女性週刊誌のご成婚特集に日本の皇太子の写真は集合写真にしかなかった。そういえばテレビの中継でもほとんど映っていなかったし・・やっぱり雅子妃と一緒でなくては、淋しいです。