クリスマスの贈り物

すでに新年のことを書いたのになんだが、去年のクリスマスのことを書いておこう。
この前、去年はいい年だった・・と書いたが、その理由が一つだけ抜けてしまったのを思い出したからだ。それはこのクリスマスに2年ぶりに友達と会う事ができたことだ。

その友人、たみこさんは2年と少し前に仕事を見つけて、マドリッドからバルセロナに引っ越してしまったのだ。バルセロナで就職した先が忙しかったこともあり、だんだんと疎遠になってしまった私たちはこの1年近く、音信不通だった。

時々「どうしているかな?」とは思っていたものの、私自身も事務職の彼女とは時間帯が合わず連絡を取れないでいた。以前に何度か電話しても留守電だったからだ。
ようやく最近になって勤務時間が同じ時間帯になったので、ますます「元気かしら?」と思うようになっていた。また昨年の11月には息子とバルセロナにも出かけたので、電話をして見ようかとも思ったのだが、結局そのままになっていた。

そのたみこさんがクリスマス前のある日、電話をかけてきた。仕事で出かけていた私の替わりに息子が電話に出たのだが、2人はお互いにスペイン語でしゃべったらしい。日本語の方が怪しいと言われるほど流暢なスペイン語の彼女と発音はスペイン人なみの息子はお互いに日本人同士とは思わなかったそうだ。

ようやく彼女と連絡がつくと「クリスマスの休みにマドリッドに行くの。できたら会いたいと思って」。早速お互いの都合をつき合わせてみると12月25日のクリスマスの昼に・・と言う事になった。
私のクリスマスは結婚してからずっと、家族だけで過ごすのが恒例だった。

夫がいた頃は夫と、息子が生まれてからは家族だけで、または弟の家族や母とクリスマスを過ごしていた。スペインに来てからは息子とたまに親しい友人と食事をするのが常だったが、スペインの一般的な騒ぎとはほど遠く静かなものだ。言って見れば、「ジングルベル♪」の大音響に対して「きよしこの夜♪」くらいの違いなのだ。
それが、今年はたみこさん夫婦も加わる事になったわけだ。彼女は小柄だが、良くしゃべるし、よく食べるとっても元気な女性だ。ご主人のイスラエルは身長190センチを超えるプエルトリコ人だが、すごいインテリで物静かな男性だ。物静かだが、よく食べるところはたみこさんと一緒だ。以前に一緒に食事に行くと2人の食べっぷりに驚かされたが、一緒に食事をしていて楽しい事、この上ない。そういえば私の友人達は食べるのが大好きな人ばかりだ。それもみんなおいしそうによく食べる。

また25日の昼間にはちょうどいつもお世話になっている知人が食事に来る事になっていたが、その人も良く食べる。一緒に食事をすると必ず「食べ過ぎた〜。胃薬を飲まなくちゃ」という人だ。おまけに息子の親友のひとり、犬のシャオくんが飼い主の都合で留守番に来ていたから余計にぎやかだ。

私は張り切ってご馳走を作ることにした。といってもクリスマスのメインデッシュは「ご飯をつめた鶏の丸焼き」というのが北村家の掟なので、後は前菜やサラダ、デザートを用意するだけだから楽と言えば楽だ。

そう、今年の献立を紹介すると、前菜は焼き豚と温野菜の盛り合わせ、ほたての刺身、チーズの盛り合わせ、オリーブの実とピクルス、主菜の鶏と一緒に野菜とうずら豆の煮込み、きゅうりのサラダ。本当はいなり寿司も作ろうと思ったのだが、あまりにも量が多かったのでやめておいたのだ。
それにしても圧巻は、23年前の赤ワインだ。知人に「2年ぶりに会う友達が来るの」というと「そんな大事なクリスマスなら」と言って持ってきてくれたのだ。

コルクを開けてカラフェに移し、しばしみんなで沈黙してしまった。「23年前って・・」とそのころの事を考えていたからだ。香りは強くないが、そのワインは良く練れていて、本当においしかった。おいしいお酒のことを「水のようだ」と表現するらしいが、このワインもそれに似ていた。口に含んでから喉越しまでさらさらと流れて行ってしまう感じがした。この1年間、スペインの色々なワインを飲んだが、その中でもナンバーワンの味だったかもしれない。という上品な沈黙は長くは続かず、みんなでよく食べ良く飲み、よくしゃべった。2年間の間に2度の引越しをした彼女達は「やっぱりマドリッドに住みたい」という。反対に私たちは旅行で行ったバルセロナが気に入って、出来たら住みたいと思っているのだから、わからないものだ。2年会わなかったのがうそのようだ。

大ぶりの鶏も骨だけになり、他の皿もほぼカラになったころ、全員で「ふ〜」とため息をついてしまった。一旦、テーブルの上を片付けて今度はデザートに取り掛かる。
「もうおなかいっぱい」といいながらだれもデザートをパスしない。私だって同じだ。

デザートは、食べるためにはなんでもする息子が作ってくれたフルーツゼリーと私が作ったティラミスだ。今までは息子の注文で、ケーキというと生クリームを使ったイチゴのショートケーキを作っていたのだが「ショートケーキはあきちゃったから、ティラミスがいいなぁ」と言い出して急遽、変更したのだ。彼もちょっぴり大人になったのかもしれない。ケーキとゼリーを食べ終わると、日本食が大好きなイスラエルが「僕、日本茶が欲しい」というので最後は全員で日本茶といただきものの「いちごくりーむ餅」と外郎。さすがに誰もおかわりはしなかった。
大人4人で飲んだのは例の赤ワインとシャンパン、デザート用のリースリングの白ワイン、どれもとってもおいしかったので他のコルクを抜く気がしなかった。

さんざん食べた後、ソファーに移動して紅茶を飲みながら息子を中心にトランプが始まった。うちに来るお客は必ず1度は息子のトランプの相手をさせられるのだ。
その日はイスラエルが息子に教えられながら七ならべを覚えた。

おなかをさすりながらみんなが帰っていったころは日が暮れていた。
狭い台所で息子と2人でたくさんのお皿を洗いながら「こういうクリスマスって楽しいね。」というと息子は「まぁね。」とまんざらでもなさそうな顔をしていた。
さて、こういう楽しいことを2004年はたくさんするぞ!と心に誓ったわけだ。