スペイン語の学習


語学の習得にはその国に恋人を作るのが一番だとよく言われる。 
私もスペインにきた当初は「いつかそういう人が現れれば、スペイン語はすぐできるだろう」と勝手に考えていた。というよりも勉強しない言い訳にしていた。

そして、そういう話題になるといつもの妄想癖が出て
「どうせならスペインの貴族と恋に落ちたりして」と考えはじめ、息子に「ママがスペイン人の大金持ちと再婚したらどうする?」などといきなり聞いたりした。息子は私のこの癖には慣れている上に、同じような癖をもっているので「べつにー、いいけど。その人、ぼくに何でも買ってくれるかなぁ」と言う。

私は無視して「そのスペイン人は実は貴族なんだよねー。だからお金はもちろんだけど、別荘とかもたくさん持っていて・・」そういいながらだんだんと妄想は大きくなり、頭の中には再婚して海辺の屋敷でのんびり昼寝している自分が浮かんでくる(それにしても、いつも金持ち=海辺の家で昼寝の図式になるので妄想はしても想像力は大してないのだ)。


それにしてもスペイン語の習得は大きな問題だ。
はじめに断っておくが、きちんと学校に通ってまじめに勉強するのが一番いいのにきまっている。大多数のかたはそうやってスペイン語を習得されている。
私の場合はスペインに来てきちんとした形でスペイン語を習ったことがなかった。スペインには就職で来たので、まずは仕事をすることが一番だったのだ。

もちろん仕事にスペイン語は必要だったが「習うより慣れろ」で今まで過ぎてしまった。

怪しげなカタコトを駆使してなんとか仕事をしてきたのだ。
この間に何度か真剣に学校に通おうかと思ったのだが、良心的な料金のところは時間がまったく合わなかった。時間が合うところは誰が支払うのか料金がものすごく高くて問題にならなかった。
あれもこれも言い訳ではあるが、こんな風にしてすでに丸3年も過ごしてきたのだ。
その間に私にスペイン語を習得させてくれるはずの「スペイン人の恋人」は現れる気配さえなかった。

その後、職場を変ったこともあって、周りにスペイン語圏の人間が増えたのでスペイン語に慣れ、意思の疎通は楽になってきた。そういう時こそ勉強すればいいのに、私は生来の勉強嫌いとものぐさのおかげで必要性は感じるものの、ついに勉強はぜずに過ごしてきた。その上、読み書きは文盲のようなものだ。


それでも何とか仕事をしてこれたのは、ひとえに回りにいるスペイン人の友人、知人、同僚のおかげです。みんな外人の私が何を言おうとしているか、理解しようと苦労したと思う。ありがとう!みんな。

ところが偶然のというか神様のお引き合わせと言うか、この9月から私はスペインの会社に転職してしまった。まして事務職だ。

今までの職場はサービス業の上、日本人経営や日本企業だったので、上司は日本人だったし、同僚は日本人ばかり、と言う時期もあった。だから仕事中に日本語で話すのはあたりまえのことだった。

それが今回は小さな輸入会社で働くことになったのだから無謀だ。日本語はまったく通じない。家から辞書を2冊も持ち込んだ。簡単なメモを書くもの一苦労だ。いちいち綴りを調べて下書きする。

事務の仕事内容はわかっても書類の名称がわからない。いちいち調べる。

今のところ、直接電話を取る機会はあまりないが、どうしても取らなくてはならないときは心臓バクバクになる。面と向かっていればいいのだが、電話だと簡単なことも理解できないことが多いのだ。
そのうえ、私は日本商品の担当と言うことになっているので、よく「これは何?」「何に使うの?」と聞かれる。また「スペイン語にすると?」とも聞かれる。うそを教えたらどうしよう・・その度に冷や汗が出る。
私のいいかげんな説明でとんでもないことになってしまうかもしれない。

そんなことを考えると、ほいほい転職した自分が空恐ろしくなってくる。
しかしこの半月、仕事をしてみて感じるのはやはり神の存在だ。
この怠け者の私に少しでもスペイン語を習得させようとしたら、この道しかない。
神様は3年間、じっと我慢していたに違いないのだ。きっとこれが神の采配というのかもしれない。お給料をいただいてスペイン語の勉強ができるのだから、ありがたいことだ。だからスペイン貴族との再婚もあきらめて毎日、辞書とにらめっこしています。