熱波のヨーロッパ


暑い。アツイ。あつい。

書いているだけで暑苦しくなるような日々が続いていた。
ちょうど8月の1日から息子が2週間の林間学校に出かけたので、私は家でのんびりして1週間ほどは前々から誘われていた旅行に行こうか・・などとぼんやり考えていた頃だ。

ところがマドリッドは、毎日、毎日ものすごい暑さで頭痛がするほどだった。
日本では「暑い、暑い」と言うがスペインでは「セコ!セコ!」と言う。
セコ(Seco)とは乾いたとか乾燥したと言う意味だが、ただ暑いという「カロール(Calor)よりずっとスペインらしい暑さの表現だな・・と思っていつも感心する。

スペインは土地が乾燥しているので、日陰に入ると涼しい。が、表に出ると直射日光が強烈で「肌を刺す」と言う表現がピッタリだ。
私は大体5時半から6時ごろに仕事が終わってクーラーの効いた職場から外にでる。
そのとたんにクラクラとめまいがする。地下鉄に乗って15分、外に出るとまたクラクラする。そして徒歩3分・・ようやく家に着く頃は、仕事をするより通勤の疲れのほうが深いような気がする。

明日から仕事が休みになるという日、何気なくニュースを見ていると
「フランスではこの熱さのために三千人もの人が亡くなった。」と報じていた。またスペインのアンダルシア地方にある村エシハ(セビージャの近郊)では、56℃を記録したそうで、アスファルトの上に卵を落として目だま焼きを作って見せていた。

そういえば以前、日本でもこんな映像を見たことがある。どこかの国で車のボンネットの上で卵焼きをつくっていたような・・私は「こーんなとこに住んでいる人もいるんだ」と半ばあきれた。それなのに時は流れて、こんなことができるような国に住むことになろうとは・・。

その2日後、半分仕事でどうしても行かなくてはならない!という友人にそそのかされて私は結局、セビージャまで出かけた。確かに暑い。日差しが肌を焼いているのが良くわかる。結局、観光もそこそこに退散してしまったのだが、レストランのおじさんの一言にはまいった。「暑いったって、今日はまだ48℃だよ。まだまだだ」
さすがやせ我慢のアンダルシア人気質だ。

マドリッドに帰ると心なしか気温が少し低いような気がする。が温度計を見ると45℃だから大した違いはない。
状況を把握しようと久しぶりに日本の新聞を読んでみると、ヨーロッパ全体が熱波に襲われていて死者もたくさん出ているようだ。

ニュースで見たようにフランスでは、老人を中心に3千人の死者、イギリスでは気象観測上初めて38度を記録したそうだ。夏になると40℃は当たりまえのマドリッドにいると「38℃?大したことないじゃん」と思うが、そんな暑さを経験したことのない国では大変なことだろうと思う。必要がないのでパリやロンドンではクーラーの設備があまりないとも聞いた。久しぶりにあったスペイン人の友人達と暑さについて話していると

「フランスじゃ5千人が死んだんだ、この暑さで。でも知ってるか?スペインじゃまだ100人しか死んでないぞ。さすがだろ」
(でも、もともとの気温が違うし、私は3000人て聞いたし、なんでさすがなんだろう?)と私が思っていると、
「なんでスペイン人がこんなに強いかっていうと、俺達は果物もたくさん食べるし、だいたいガスパチョを、毎日飲むからだ。フランス人はそんなことも知らないんだ」

(知らないっていうより、食文化も違うし・・ま、確かにガスパチョは私も大好きだけど、これっていろんな意味でライバル意識を持っているフランスだから出てくる言葉だよな)等と、すごい勢いで話しているのに口を挟めずに心の中でこんな風に考えていると、私の反応にイライラしたのかサンチャゴがこう言った。

「知っているか?ロンドンのロウ人形館の人形が溶けちゃったんだぞ。あのロウは36℃以上で溶けるようになっているんだ。エリザベス女王もチャーチルもな。」
これを聞いて私は久しぶりに大笑いをした。
顔のところがドロドロ溶け出した切り裂きジャックとか狼男、日本の首相なんかを想像したらおかしくてたまらなくなったからだ。

日本は10年ぶりの冷夏と聞きました。
「スペインの暑さと日本の冷夏を足して二で割ればちょうどいいのに」と息子は言っていました。いかがお過ごしでしたか?