ストレスとドリンク剤

スペイン人はストレスに弱い。
スペイン人を日本に連れて行ってワンルームマンションに住まわせて、満員電車で通勤させ、日本人のように働かせたら、きっと1週間くらいでストレスが溜まって過労死してしまうだろう・・というくらい弱い。

もしかしたら「ストレス」なんて言葉を知らないスペイン人もいるのかもしれない。
知っていたとしても、実際に日本人のように感じている人も少ないかもしれない。
だいたい私がスペインに来てからも、自分の周りで「ストレス」などという言葉は日本人以外から聞いたことが無かった。

日本語にすると「神経質になっている」というような表現は良く使われているが、「ストレス」とはちょっと違う気がする。

ところが、最近私の職場での流行語はこの「ストレス」という言葉だ。
毎日、挨拶代わりに「元気?」と聞くのだが、その度に「そうねー。ストレスがねー」なんて答えが返ってくる。

昨年末に私の職場では、方針というか営業方針が大きく変わり、言ってみればとてもまじめになった。簡単にいえば「まあ、いいじゃん」という部分が無くなり、皆一緒に何度も同じ事をやらされるので、個人プレー集団のスペイン人にはきつい。

また、仕事の都合とかでスペインに転勤された方々と違って、好きでスペインに住んでいる日本人(これ私のことです)にとっても、つらい。
そんなわけで、以前よりイライラが増すようで、同僚同士の揉め事なども、度々起こるようになった。

こんなとき「やっぱりスペイン人はストレスに慣れてない」と実感する。
でも、この「ストレス」という言葉はとても便利な使い方ができる。
なにか問題があった時に、ある程度収まってから「ストレスのせいでこうなったのよ」というと「そうだ!私達がわるいんじゃない!ストレスのせいだ」と双方が納得して丸く収まるのだ。

「ストレスってのは、個人が感じたり心に持っていたりするもので、結局はその個人の問題では・・」なんて言ってはいけない。あくまで「ストレス」という名の悪者のせいなのだ。そうすると、みんなほっとしてぱっと空気が変わるから不思議だ。

ところで、私は日本でかなりドリンク剤フリークだった。
極度の疲れを感じたり、ちょっと落ち込んで元気が無くなったりすると、その辺の薬局で一気飲みしたものだ。また、風邪のひき始めなども風邪薬と一緒に1本飲んでいた。そうすると、「だいじょうぶ!」とみるみる元気がみなぎるような気がしていたのだ。
つまりはストレス緩和剤のような役目をしていたのかもしれない。

しかし私の愛飲していたドリンク剤は、せいぜい300円どまり。
それも大きな瓶や清涼飲料系は苦手で、昔からあるアンプル程度の量で、「○○内服液」なんて薬っぽいネーミングのものに惹かれた。効きそうな気がしたからだ。

だから、赤まむしだのレディース○○なんて何千円もするものは飲んだこともないし、飲んでみる気もしなかった。これって貧乏性なんでしょうか?
この冬は、風邪をひかなかったかわりに体調がいまいちな事もあり、また「ストレス」という言葉をよく聞くようになって、はたとドリンク剤のことを思い出した。

でも、スペインの薬局に行ってもドリンク剤なんて見たこともない。
思いついて友人のやっている自然食品やハーブなど薬草を扱っている店に行ってみた。液体のロイヤルゼリー位はあったが、総合的な成分の入った日本のようなドリンク剤はなかった。
友人は「これはどう?」といって顆粒状の朝鮮人参茶を勧めてくれたが、そういえば以前にこれを試してみたことがあったのだが、ドリンク剤のようなパワーは感じなかった。そうだ!朝鮮人参といえば・・ということで、今度は韓国の食材店に行ってみた。

すると「リポ○タン○○」に外見はそっくりで、ハングル文字で書かれたドリンク剤を見つけた。さらに同じような大きさで朝鮮人参が丸ごと入っているのも発見した。
さっそく朝鮮人参入りを買って、飲んでみた。ついでに朝鮮人参もガリガリかじってみた。でも、どうも甘すぎるし清涼飲料の感が抜けなくて、私のなかではピッタリこないでいた。「ま、ここは日本じゃないのだし、私の場合、薬が必要というより精神的にドリンク剤が欲しい気分だっただけなんだから・・」と自分に言い訳をしてあきらめる事にした。

その後、自宅近くの中国食材店に行ったときのことだ。
ここは大根やサトイモ、しょうが等の野菜をはじめ、豆腐や肉まん、日本の味噌や醤油も置いてあるので重宝している店だ。
ふと棚をみると20センチくらいの長方形の箱があり、「人参精」 と書いてあった。
よく見ると3,4種類あって、中には「人参蜂王漿」(たぶんローヤルゼリー入り)と書いてある物もあった。値段は大体、3〜4ユーロで10本入りだ。

私は「やったー」と思って、さっそく「人参精」を一箱、買い込んだ。
成分は朝鮮人参が入っていることには間違いないが、中国語で書いてあるからよくわからない。お店の人に聞いてみても「それいいよー。元気になるよ」というばかりだ。
それから私は毎日欠かさず、時には一日2本も飲んでみた。

すると、あるとき飲んだとたんに手の先が暖かくなるような気がして「わー、効いた!」と確信した。
そういえば上司のサンチャゴもかなり疲れた顔をしていたっけ・・と思い、奮発してローヤルゼリー入り(値段は人参だけのと同じ)をプレゼントしてみた。
そうしたらみるみる流行って、職場のスペイン人に「私にも買ってきて!」と何軒も頼まれてしまった。

中には効果絶大な人もいるようで「また買ってきて!」とか「どこで売っているのかおしえて」と言う人もいた。とうのサンチャゴは「みや、僕の家の近くにある中華の店に同じものがあった。続けて飲んでみるよ。ありがとう!」ですって。
ドリンク剤のせいではないだろうが、最近は自分も含めてあまりストレスという言葉を聞かなくなってきた。

スペイン人にストレスなんて言葉は似合わない。
「え?ストレス?それはいったい何?へー、日本にはそんな病気が蔓延しているんだ。かわいそうに、スペインではそんなものは流行ってないよね」と言いたいものだ。