クリスマス その2

スペインには、クリスマスのシーズンになると「セェスタ」とよばれる日本のお歳暮のような習慣がある。これは贈り物を籠や箱などに詰めてプレゼントする習慣だが、クリスマスプレゼントとは別で、12月24日までに贈られるし、見ていると、たいていは食べ物や飲み物に限られているようだ。

そして日本と違うところは、目上だけではなく、例えば会社などが従業員全員にプレゼントしたりすることだ。
その昔は、20日過ぎからクリスマスにかけて、セェスタにもらったハモンセラーノの足を担いで家路に向かう労働者達がたくさん居たそうだ。日本でいえば、お歳暮に新巻鮭をもらったようなものだろう。

私は毎年、ポルテロとよばれる管理人のアントニオにささやかなセェスタをしている。また、職場でお掃除や簡単な洗濯を引き受けてくれている叔母ちゃんたちにも「あなたたちだけよ」と渡している。日本にいるときは、儀礼の意味もあってお歳暮を贈っていたが、今はほんとに「ありがとう!」という気持ちだけでプレゼントしているので気持ちはとっても楽だ。内容も食品の詰め合わせではなくて、アントニオにはクリスマス用にちょっと高めのワインやシャンパンを、おばちゃんたちには外国製のボディーソープとか身の回りのかわいいものという具合だ。ちなみに今年は「クリスマスのお茶」という季節限定の紅茶をプレゼントしてみた。値段も日本で言えば1000円くらいのものだ。

この時期に、デパートや食料品店に行くと、大きなバスケットに山盛りのワインや缶詰、瓶詰めが飾ってあるのを見ることができる。デパートなどはその脇に、日本で言うサービスカウンターのようなものがあり、先方に配達を頼むこともできるようだ。

これをみると、私はなぜか子供の頃によんだ御伽噺を思い出してしまう。
お城の舞踏会の食卓に並べられたご馳走の数々・・マッチ売りの少女が眺めたクリスマスの食卓等、いつまでたっても私にとって外国の食品やお酒は「ご馳走」に思える。

ご馳走といえば、スペインのクリスマスのご馳走は「海老」と「肉」になるようだ。
それも肉では、子羊の肉や子豚の丸焼きなどが人気らしい。また、スペインはこのシーズンになるとヨーロッパの中で海老の消費が第一位になるということだ。
「ともかくよく食べるのよねー。シャンパンやワインも欠かせないし、この時期の雑誌の特集はダイエットが多いのよ」と友人のエレナが言っていた。

うちはなぜかクリスマスはロースト・チキン、それもおなかにピラフを詰めたもの、と決まっていて毎年、これを作る。息子もクリスマスのご馳走はこれだ!と思っているらしく楽しみにしている。スペインでもアメリカあたりからの影響かロースとチキンやローストターキーを食べる人たちも増えたらしく、この時期になると丸焼き用に用意された鶏や七面鳥がたくさん売られている。

しかし、スペインではクリスマスよりも大晦日に大ご馳走を食べるのだそうだ。
私はスペイン人の食事に招かれた事はないので、実際には知らないが、友人、知人達の話しを総合すると、その日は、まず海老の茹でたのを散々食べて、その後メインの肉料理に突入するらしい。その後は甘いデザートを山ほど食べて、(でもこれはクリスマスケーキとは別)食後のリキュールを飲む、もちろん食事の間はワインやシャンパンをジャブジャブ飲むらしい。その後もコーヒーや強めのお酒と一緒にクリスマスのトゥロンと呼ばれるお菓子を食べる。と、ともかく食べつづける。

その上、食べている以上にしゃべり続けていて「スペイン人は口が2つあるのか」と思うそうだ。それに比べて我が家はあっさりとしたものだ。

今年のクリスマスには友人をよんでロースとチキンとケーキ、もちろんシャンパンで乾杯した。大晦日は昼間仕事をしていたので、職場の人たちとシャンパンで乾杯して、挨拶を交わして帰宅した。ちょうど、出張で来ていた日本人の方に「なんだか師走という感じがしませんね」といわれたが、スペインにいると本当に大晦日という気がしない。

家では、息子が「年越しそばを食べようね」というので用意したが、後はいつもと一緒の夕食を食べた。変わったことといえば、日本人の友人が貸してくれた日本のビデオを見て遅くまで夜更かししたことくらいだろうか・・

大晦日は家の近くのソル広場に人々が集まり、カウントダウンするのが昔からの恒例らしいが、物騒なので出かけはしない。そのかわり、その模様はテレビで中継されているし、打ち上げた花火の音も聞こえてくるくらいなので、結構、隣聴感があって楽しめる。

今年もビデオを中断して「カウントダウン番組」を見て、息子と「おめでとう」と言い合った。しばらくすると花火の音と光が窓の外に映って見えた。

「この1年、色々なことがあったなー」と、ふと感傷に浸りかけたが、元旦を休むと私は翌日からは普通の生活が始まる。

だが、スペインのクリスマス・シーズンはこれで終わらないのだ。