新学期が始まった



新学期が始まった。
息子はとうとう6年生、小学校の最終学年になった。
息子の学校は今まで、学年ごとに担当の先生が決まっていた。
去年は5年生だったからパロマ、その前はフエン、で今年はアナの番だ、と私は思っていた。
学校から帰って来た息子は「担任はまたパロマだし、教室もおなじだった」と不満顔だ。「何で?」と聞くと「知らない。でも教室は6年生のが狭くて僕たち全員が入れなかったんだよ」という。「それって学校に行ってからわかったの?」「うん」。

やっぱりねー。その場になって先生達が、ばたばたしている光景が目に浮かぶようで思わず笑ってしまった。
おかしいといえば、新学期が何日に始まるのか、私達は知らなかった。
いつものことだが、私は息子任せに、息子は私任せにして「いつから学校が始まるか」など気にしていなかったのだ。6月20日に夏休みになり、7月に学校の林間学校があった。林間学校から帰ってきた時、たしか「学校で会いましょうね」と修道女で生活担当のアリシアは言っていた。でも何日かは言わなかった。

これもいつものことなので私達は気にしていなかった。
9月の中頃なのは間違いないので、9月になってから電話すればいいやと思っていたし、たしか去年も学校に電話した記憶がある。

一方、日本人学校の補習校は、9月の第1週目から始まる。週1回の土曜日だけだが、日本の学校だから始業日はほぼ同じだ。スペインと違って2学期の始まりだから、特に問題はない。スペインで生まれた子やハーフの子、現地校に通っている子供達が補習校に通うので、9月の第1週は登校する子が少ないそうだ。まだ夏休みの最中だという気分なのだろう。息子は暇を持て余していたので、1学期と同じようにお弁当を持って登校した。

その頃になると「学校が始まってほっとしたわ」という話を聞くようになった。
それでも私達は、商社関係の子弟がよく通っているインターナショナルスクールの事だと思って気にしていなかった。

次の月曜日、テレビニュースの話題は『新学期が始まった』ではないか。初めて学校に通うおちびちゃん達(スペインでは4歳から小学校に通う)、教科書を一杯詰めたカバンを持った子供達が映っている。
息子と私はにわかに心配になって「今年は学校、いつからだっけ」と話し出した。
でも、お互い相手をあてにしていただけで、2人とも知らないことに気が付いて青くなった。さっそく電話をして確かめようとしたが、家の大掃除をしていたのですぐに電話番号が見つからない。

慌ててもしょうがないので息子には「あした学校に行って『こんにちは。学校はいつからですか?』と聞いてきなさい」と言いつけた。
息子は「いやだよー。」と反抗の姿勢をみせたものの結局はその気になった。ママをあてにしても仕方ないと悟ったのだろう。次の日、私が仕事に行っている間に息子は学校に行って「今年は9月15日から」と聞いてきた。それにしてものんびりしたものだ。その上、9月中は午前中しか授業はないはずだ。

長い夏休みの間、息子は2度キャンプに出かけたが、後半はもてあまし気味だった。残った宿題をしたり、映画に行ったりしたが、だらだらと家でテレビを見たり、ゲームをして過ごす時間が長くなった。
仕方がないので私が買い物に行くときには荷物もちとして連れて行ったが、力は有り余っているようだ。

近くに行き来できる親しい友達もいないし、子供が遊びにでるような公園もない。日本のように水泳の授業がないので、当然、学校にはプールもない。日本のような校庭を持つ学校もあまりない。まして息子の学校は小さな教会の学校なので校庭というより中庭があるだけだ。日本では毎日、外で遊んでいたので息子はスペインに来て「淋しい」といっている。20分も歩けば海があったのにマドリッドから海は遠い。かわいそうなことをした・・と反省するのはこんなときだ。

この新学期が始まると親達は「夏のバカンスにお金がかかったのに、今度は学校ねー」とため息をつく。9月が新学期になるということは、教科書をそろえなくてはいけない。日本は義務教育だと教科書は無償だが、スペインは学校に指定された教科書を個人で買いに行かなくてはならない。教科書を扱っているのは決まった本屋なので、そこに出かけていく。デパートでも扱っていて「○○日までに買えば○○%引き」などと宣伝している。家の近くのデパートは自分で棚から本を探さなくてはいけないし、目当ての教科書が揃わないことが多かったので、私は「カサ デ リブロ」という大きな本屋の教科書コーナーに行く。

そこのカウンターでリストを渡すと揃えて持ってきてくれるのだ。以前は張り切って8月に出かけたが、教科書が揃わない。「いつはいるの?」というと「来週、来週」というが入ったためしがない。何度も足を運ばなくてはならない。
そこで最近は学校が始まった頃に行く。スペイン人もそうするらしく、本屋は混んでいる。学校が始まって1週間経ったが、図画工作の教科書はまだ本屋に入っていない。息子にいうと「平気だよ。いつも1ヶ月くらいは使わないから」という。

それにしても教科書は高い。2万円から3万円近くが吹っ飛ぶ。私には結構な出費だ。その上、息子の学校は制服があるのでそれも用意しなくてはいけない。
ズボンとポロシャツ、セーター、体育の時に着るジャージを含めるとこれも2万円くらいかかる。教科書のほうは前年度に書類を提出しておくと補助金がもらえて、40%くらいは返ってくる。制服は去年、大きめのを買ったので、とりあえずは間に合いそうだ。

それより息子が「あのねー、ぼくクラス委員になったんだよ。」といったときは本当にビックリしてしまった。
「なんであんたがなったの?誰もなりたい人がいなかったの?クラス委員って何をするの?日本とは違うんでしょ?」と質問攻めにしてあきれられてしまった。自慢じゃないが、息子は日本でいう優等生タイプとは程遠いからだ。
でも、息子自身もスペインのクラス委員が一体何をするのか、あまり良くわかっていないらしい。「たぶん先生が来ないときに『自習してね。』とか言うんだと思う。」と自信なさそうに答えるだけだ。

よくよく聞いてみると、一緒に委員になった女の子は5票、息子は3票、後の子は1票だったそうだ。私が「みんな自分の名前を書いたんじゃない?」というと「そうかもしれない」とまじめな顔をして答えるので、やっぱり日本でいうクラス委員とは違うようだ。

そうそう、恒例の学期初めクラス懇談会も催された。
私は担任が去年と同じなので気楽だ。例年どおりの図書館を利用するのにカードを作るから写真と6ユーロ(約千円)が必要、これはすでに登録済み。
APA(日本のPTAみたいなもの)に登録する人はこの用紙に記入して子供に持たせて、と紙を渡される、これも例年と同じで名前や会費の引き落としのために銀行口座などを記入すれば良いだけだ。今年の課外活動はバレエとサッカーが昼休み、英語と合唱が放課後だそうだ。息子は去年、放課後にスポーツのクラスに週2回、参加していた。サッカーやバスケットなどしていたが、スポーツというよりは遊びの延長のようなものだったらしい。身体を動かす機会が少ないので、あまり好きではないがしぶしぶ参加していたのだ。これは帰宅してから息子と相談して決めればよい。もちろん参加しなくてもかまわない。

さて、ようやく新学期も始まった。気が付くと夏の暑さがうそのようなさわやかなマドリッドになっていた。