パルド


この間、「ペルディス」のことを書いたら、森津先生が「私も食べてみたくなりました」とメールに書いてくれました。

実はその後、マドリッドの郊外8キロのところにあるパルドという村にペルディスを食べに行ってきた。ここには王家の迎賓館でもあるパルド宮がある。

そしてパルド宮は、かつてフランコ総督の公邸として使われていたそうで、一般にも公開されている。私もここを見学に一度だけパルドを訪れたことがある。たしかガイド付きの見学で、フランコ総督の執務室や夫人の居室、アラブ風の喫煙室などを見た覚えがある。そうそう、迎賓館といえば日本の天皇、皇后もスペインを訪問された折にはここで歓迎を受けられたそうだ。

一方、パルドはマドリッドの人たちが、週末に散策して食事をしに行く場所だ、レストランもそれぞれなかなかのものだ。という話を何人かのスペイン人から聞いたことがあった。その上、野鳥や狩猟動物の料理が名物だというので、

「ペルディスを食べる=パルド」という方程式が私の頭の中に出来上がってしまった。さっそく友人達に「パルドにご飯を食べに行くんだけど、どのレストランがいいの?」と聞きまくった。結局、レストランの名前を知っている友人は、誰もいなかったが「噴水のある広場の向かって右側の店」とか「緑のテントがある反対側のバル」などと情報が寄せられた。情報をまとめてみると、要するにどこもなかなかだが、昼頃に繁盛している店に行け、パルドは狭いからすぐわかる・・ということらしい。

前回は見学だけで時間がなかったので、どこにも立ち寄らず帰ったのだ。くやしい。
今回はその分も食べてやる!
パルドに着いてみると、なるほど友人達が言ったとおり、レストランやバルがたくさんある。適当に覗いて見て繁盛していそうな1軒に決めた。

一緒に行った友人はバルで一杯飲みながら、レストラン用のメニューを借りて、ペルディスの料理があるか確認し始めた。私がパルドに誘ったときに、しつこいくらい「ペルディスを食べたい」と言ったからだろう。
席に着いて、注文しようとメニューを見ると、ペルディス以外にもイノシシや鹿というメニューもあり、何にするかおおいに迷ってしまった。

結局、3人で全部食べてみようということになり、3種類の肉料理を注文した。
鹿はワイン煮込み、イノシシはローストポークのように焼いてあり、別にりんごのソースがつく。お待ちかねの、ペルディスは、にんじんやセロリ、玉ねぎなどの香味野菜と一緒に煮込んであった。付け合せは、どれも茹でたじゃがいもで、一皿、一皿の量が、とても多い。

みんな野生の動物なので臭みが強いのかと思っていたが、まったくといって良いほどなかった。ちょっと拍子抜けするくらいだ。この中で、鹿は刺身で食べたことがある。
イノシシも鍋で食べた。もっと獣臭くて野味に富んだものだった記憶がある。もちろん日本でのことだ。
スペインの鹿はちょっとサクサクしていて、口ざわりは牛の煮込みのよう、硬い部位に似た感じだ。イノシシは、まったくといっていいほど豚・・それも脂をとったロースという感じでとても上品だ。ペルディスは食べる部分が少ない上に、香味野菜の風味で鶏、という以上に味がわからなかった。日本ではすずめや鳩も食べたことがあるのだが、そのどれにも似ていない・・しいていえば鶏の手羽の感じだ。

かなり大食いの友人と育ち盛りの息子、食べ物に関しては意地汚い私の3人でかかっても、この3皿はもてあまし気味だった。

最後は「たべろ。食べろ」とお互い他人に強要しつつ何とか食べ終わった。
それでも息子はデザートにアイスクリームを食べ、私達は店からの驕りのリキュールを飲んでいたから、やっぱり日本人にしたら、かなりのものかもしれない。

ふと周りを見回すと、レストランは食事の客で一杯だった。そしてほとんどのテーブルで私達のような料理を注文していた。
食事の前には「食後はパルド宮の見学でも・・」と話していたのだが、私達は無言で車に乗り込み、一目散に家に帰った。

なぜ?って、昼寝をするために決まっているじゃないですか。
あー、満腹。満腹。