クリスマス その1


1年が過ぎるのは、なんて早いんだろう。

食欲の秋だの文化の秋だの言っているうちに、11月も飛ぶように過ぎていってクリスマスのシーズンになってしまった。町ではクリスマスのイルミネーションが輝いている。

私は、今年の2月に日本に住んでいた母を亡くした。喪中なのでお正月はしないし、年賀状も出さないつもりでいる。たまたま、昨年まで使っていた折たたみ式のクリスマスツリーが、ぼろぼろになってしまって処分したので、今年はクリスマスもなしだろうなーと思っていた。

この前、息子が「ママ、早くクリスマスツリーを買わないと」というので、
「おばあちゃんが亡くなったから、今年は飾らないつもりでいたんだけど」というと
「でも、飾りをしないとおばあちゃんが飛んでくる目標がないよ。それにおばあちゃんは仏教だからクリスマスはやってもいいんじゃない」という。

そう、確かにスペインのクリスマスは日本にない綺麗さや素朴さがある。
11歳になった息子が、おばあちゃんにスペインのクリスマスを見せたいと思うのはあたりまえだろう。残念ながら母はスペインに来る機会がなかったので、その気持ちはひとしおだ。私も同じ気持ちだ。そんなわけで、これからツリーを買って、飾り付けをしようと思っている。

スペインのクリスマスはもちろん12月24,25日にかけてだが、本来、サンタクロースは来ない。外国からの先例で、日本と同じようにサンタクロースに子供は夢を描き、大人はクリスマス商戦で血眼になる。町にはクリスマスの飾りが溢れ、テレビのCMはプレゼント用の商品ばかりになる。

「クリスマス価格」ということで物価も上がり、肉類はもとよりスペイン人がクリスマスからお正月にもっとも好んで食べる海老はかなりの高値になる。また、トゥロンとよばれるお菓子もいっせいに売り出される。
トゥロンは簡単に言えばマジパンにナッツやドライフルーツ、チョコレートなどを混ぜたりコーティングしたお菓子で、様々な種類があるが、羊羹の倍くらいの大きさがある。
それを小さく切って食べるのだが、かなり・・というよりものすごく甘い。

普段は日曜日と言うと、ほとんどの店は休みになるが、12月だけは特別に営業している。そして、どの日に出かけてもクリスマス用の買い物をする人たちで、デパートや大手スーパーはかなりの混雑だ。
11月のテレビのニュースでは「12月は物価があがるから、保存できるものはなるべく早めに買うほうが望ましい」などと言っていたが、私は息子と2人だし、かまわないや・・と、まだ何も買ってはいない。

さて、肉や海老にも気をそそられるものの、私はマイヨール広場にたつ「クリスマス市」のほうが興味深い。クリスマス市と書いたが、実際はクリスマスから始まってレイジェスが終わるまでの間がクリスマスシーズンということになる。12月に入ると、朝の10時ごろから、広場にはたくさんのクリスマスグッツを扱う露天が店を開く。根のついたもみの木や実のついたヒイラギ、さまざまなツリーの飾り物や仮装用のお面やカツラ等、見ていて飽きない。
ベレンとよばれる飾り物の店もたくさんある。ベレンはキリストの生誕をお祝いする場面を模した飾り物で、日本でいうお正月飾りのように各家庭に飾られる。

会社、商店、ホテルや公共の場所には工夫を凝らした大掛かりなベレンが飾られ、そのベレンを見にたくさんの人が訪れる。マイヨール広場にもテントの中にベレンが飾られていて市に来る人は列をなしていた。私もスペインに来てから何箇所かのベレンを見たが、レオンのパラドールにあったベレンはとても印象的だった。見事な木彫りでできている像だが、すべてが現代彫刻のように抽象的に、簡素に彫られていた。
美しいなとは思うものの、今のところ、自宅にベレンを飾ってみようとは思っていない。
せいぜい色々なベレンを鑑賞させてもらおうと思っている。それについてはまた今度、ご報告したいと思っております。

ところで、スペインにサンタクロースは来ないのだが、スペインの子供は、ふつう1月7日の「レイジェス」に東方の三賢帝からプレゼントをもらう。サンタクロースと同じで、レイジェスに「なになにがほしい」とお願いしたりするし、その日はマドリッドで言えば、大掛かりなパレードが町を練り歩き、レイジェス達がお菓子を撒いたりする。
息子は日本でサンタクロースが来ていたので、スペインに来た始めてのクリスマスのときは「プレゼントは日本に着くかもしれない」とかなり心配していた。

結局、サンタクロースは無事、息子にプレゼントを届けてくれたので、息子は「スペインに引っ越したのがわかってよかった!」と大喜びしていた。

その上、スペインでは「レイジェス」もあるということを知ってしまった。ただ「レイジェス」の方は子供の日に親がプレゼントを買ってくれる日という認識だったので、私の機嫌によってはもらえないと思っていたようだ。
私は息子がいつサンタクロースの正体に気づくだろうか・・とスペインに来てから思い続けていた。昨年は、「サンタクロース」の話題を今ごろから話したのだが、少々テンションが落ちていたような気がした。
私は密かに「大人になったのねー」と思っていた。

さて、今年は・・というと、公式に会見はしていない。
わざと、と言うくらい、その話題には触れない。
多分、サンタクロースの正体を知ってしまったのだろう。
ただ、その話題に触れないと言う部分に、私に対する「いたわり」を感じてしまう。きっと「ママの夢を壊したらいけない」くらいに思っているのかもしれない。

そういえば息子は、本当に大きくなって、役に立つようになってきた。スペイン語の通訳はもとより、材料さえあれば、簡単な食事は作れるようになった。これは、たまたま見つけた「セイシュンの食卓」という本のおかげだ。そこに書いてある漫画を見ながら、たまに得体の知れないものや、まっとうなものなど作って食べている。片付けや掃除は、いまいちだが、ま、こんなもんだろう。

しかたない!「ママの夢」と思われてもいいから、今年もサンタさんのプレゼントを用意しよーっと。