冬時間


10月27日の深夜2時、スペインは夏時間から冬時間に替わった。今まで日本との時差も7時間だったものが8時間になった。つまり深夜の2時が1時になったのだ。1時間、得をしたような気になる。ところで、このサマータイム制度はとてもよくできていると思う。

夏が過ぎてから、どんどん日の出が遅くなり、この日まで朝が暗くて仕方なかったからだ。朝8時と言ってもまだ薄暗く、7時と言えば真っ暗だった。私は息子が学校に行くので、だいたい7時から8時には起きなくてはならない。日本にいたときは、学校も始業が早かったし、森津先生のクリニックも遠かったので、もっと早く起きていた。でも、あまり違和感は持たなかった。日の出も早かったし、なにより周りも同じように早かったからだ。それに早起きをすると「早起きは三文の徳」という気持ちになれたものだ。

だが、スペインは違う。朝がほんとに遅い。日本と同じように目を覚ましても、「さわやかな朝」という感じがしない。三文の徳というよりは「まだ寝ていたい」という感じだ。もちろんこれはスペインのせいではなくて、私自身のせいでもありますけど。

ところで「夏時間から冬時間の変更日がいつなのか」私がスペインに来たときから、ずっと疑問に思っていた事の一つだ。冬から夏時間に変わるときはなぜか慌てないし、それがいつだかあまり気にしないで済む。なぜだろう?
何時だったか、どうして知ったか、思い出そうとしてもなぜかできないのだ。

とりあえずに夏時間から冬時間の変更日に関して言えば、初めの年は、日本から知人が来ていた。
知人は「私の帰る日が変更日に当たるらしい・・と日本で聞いてきた。飛行機に乗れなくなると困るから、リコンファームしたときに訊ねてみたが、はっきりしないけど、いつ?」といわれた。それからいろいろと聞いてみたのだが要領をえず、知人はどっちになってもいいように早めに空港に向かった。去年はその当日に友人から電話がかかってきて「知ってる?今日、時間がかわるんだよ」といわれた。私はその時間まで、まだ半日もあるのにさっそくうち中の時計を1時間前に戻した。そしてその日は、時間を意識しなくてはいけない用事はすべてキャンセルして1時間世間とずれた生活をして過ごした。なにしろ学校がある、勤めがある、1時間も間違えたら大変だという強迫観念に駆られたのだ。

今年も9月か10月に変わるはずだと思っていたので、職場の同僚や友人達に「いつかわるの?」と聞きまくった。が、だれも知らなかった。
スペイン人じゃ当てにならないと思った私は、日本人の友人にも聞いた。
「そうねー。たぶん10月の終わりごろじゃなかった?」
「そう、そう私も知りたかった」と言う人ばかりで私の周りにはやっぱり知っている人はいなかった。みんな在西10年以上と言う人を選んで訊ねてみたのだが。

もちろん息子にも聞いて見た。息子はスペイン人学校に通っているので、子供と言えども、私よりスペインの事情に詳しいことがままあるからだ。ところが息子も「替わるのは知ってるけど、いつかは誰も知らないよ」という。日本と比べちゃいけないけど、日本だったら、ものすごく前からあらゆる媒体を利用して「キャンペーン」を張るだろう。

それに引っ掛けたイベントなんかも有りそうだし、TVでカウントダウンの番組なんか流しそうだ。もっとも大掛かりなイベントは、はじめの1回で終わりそうだけど。
今年は友人が教えてくれたので、職場に言ってからみんなに「今日、時間が変わるんだよね。」と言って回ったが、やっぱりみんな「あ、そう?」とか『知らない』とか気のない返事ばかりだ。私はだんだん不安になってきて「もしかしたらこれはガセネタかも・・」などと考え始めた。

すると、午後になって急に上司がやってきて「今日、というか深夜時間が変わるんだぞ。忘れないように時計を変えなさい」と言ってきた。正確に言えば、27日の深夜は日曜日なのでその朝の仕事や学校に支障をきたすことはないのだが、何となくほっとした。それにしてもなぜ知ったのか?

「テレビやラジオで言ってたぞ」
「それって特集番組か何か?」
「いや、普通のニュースの中で『そう、そう今日は時間が変わります』とか言ってたな」だって。

一夜開けて、日曜日。特に何もなく一日は過ぎた。