息子の夏休み その1


夏はあっという間に過ぎてしまう。昨年も今年もだ。
夏が特に短いわけではなく、息子の夏休みにいたっては3ヶ月もある。今年、私は仕事で少々忙しかった時期もあったが、昨年はとっても暇にしていた。それなのに気がついたらもうすぐ10月になろうとしている。確か去年もこんな風だった。

でも、せっかくだから息子の夏休みのご報告しましょう。こんな具合だ。
6月20日ごろに息子は夏休みになる。スペインの新学期は9月なので学年末の面談がその2,3日後にあり、ハラハラドキドキしながら成績表を貰いに行く。
無事に面談が済むと、来学期の教科書のリストを渡されて、終わりとなる。
また、その頃になると、息子が夏休みをどう過ごすか、情報収集をはじめる。

例えば、昨年は息子には、スペイン人の子供たちが普通に過ごす夏休みを体験させたいなあ・・と思っていた。

スペイン人の友人達に聞いてみると「田舎(この場合、両親の)に帰るか、キャンプだ」という。キャンプというのは文字どおりキャンピングと言うわけではなく、いってみれば林間学校のようなものだ。そういえば以前、日本に帰国された知人の息子さん達が、夏休みだけスペインのキャンプに参加された・・と言うお話を伺ったことがあった。

息子さんたちは小学校をスペインで終え、現在は日本の中学や高校に進学されているが、小学校時代のキャンプが忘れられず、参加したというのだ。


周りの子供を持つ知人・友人にリサーチしてみると、このキャンプには学校主催のものや市の主催するもの、営利団体のものなど様々なものがあるそうだ。期間はだいたい2週間から1ヶ月くらい、夏休みをキャンプの掛け持ちで過ごす子もいるそうだ。

また、地方に泊りがけで出かける以外にも、日帰りで朝から晩まで学校に通うのと同じような時間帯のキャンプというのもあるそうだ。
費用は大体が2週間の泊りで5万ペセタ位のようだった。

息子の学校は、だいたい7月中にキャンプと呼ばれる林間学校がある。これは10歳以上の生徒が対象で他の県や地区にある姉妹校の生徒達も集まる。が、あくまで自由参加なので昨年は10人、今年は4人だけだった。


日本に住んでいた時は、実家の近くには公園や緑も多く、学校ではプールも解放されているので息子は毎日、近所の友達と連れ立ってプールに行ったり、公園で遊んだりして過ごしていた。ところがスペインでは一般的に学校にプールなどはないので、どこかに連れて行かなくてはならない。たとえ近くにそういう場所があったとしても、スペインでは保護者がつくのがあたりまえなので、私は仕事もあるし、なかなかどこかに連れて行くことができない。息子が一人で気ままに遊びにいけるようなところも近くにないのだ。


去年は学校主催の12日間のキャンプに参加した息子だが、様子を聞くと「ともかく外で遊びなさい」と言われ、モニトールと呼ばれる若いリーダー達が、相手をしてくれるらしい。みんなで遠足に行ったり、バスで海を見に行ったり、ともかく毎日楽しく遊ぶだけの日々だったらしく、息子は食事の不味さ以外は満足して帰ってきた。今年は学校の都合で1週間だったが、7月に息子は学校のキャンプに参加した。


よく聞いてみると、息子の学校の母体である修道会が、スペイン各地に修道院などの建物を持っていて、こういった建物を利用した夏休みのキャンプは恒例なのだそうだ。

さっそく参加申し込みをして支払いをすると、一週間後にキャンプについての説明会があるから参加するようにと連絡がある。

昨年の説明会は、モニトールと呼ばれるキャンプのリーダー達と親や生徒たちの顔合わせや簡単なキャンプの内容説明などで、1時間ほどで終った。モニトール達はいずれも大学生と言った感じの若者で、例えば親が「なんで目的地まで電車を使わないんだ!その方が早く着くのに」と言うと「電車で行くより、他の都市の参加者を拾いながらバスで行った方が安いです」なんて気軽に応えていた。特に印刷物を渡されることもなく「じゃ、よろしく!」といった感じで解散となった。私はモニトールの中でもリーダー格と思しき真面目そうな青年を呼び止めて「息子は初めてだし、スペイン語もまだ不自由だし、心配なんです」と息子より不自由なスペイン語で言った。彼は「大丈夫です。ともかく毎日する事がいっぱいあって、何にも考える時間なんて無いし、夜は疲れて起きてられないです」と言って、にっこり笑った。


さて、いざキャンプの荷物を用意し始めると、「洗濯はどうするんだ。下着や着替えは日数分いるのか、小遣いはいるのか」などなど疑問だらけだったが、どこに問い合わせたらいいのかわからず往生した。なにしろ学校はすでに休みで誰もいない。


友人達に聞いてみても、キャンプじゃ洗濯はしてくれる・・という人あり、してくれないという人あり、小遣いは昼飯代(じゃ昼飯は入ってないのか?)くらい、いやいらないという人あり、誰に聞いてもはっきりしないので、着替えだけで山のような荷物になってしまった。思えば日本で息子が経験したボーイスカウトのキャンプはなんと丁寧な説明があったことか・・なにしろ「パンツは何枚、シャツは長袖何枚、半そで何枚」という具合に持ち物リストが作ってあったし、日程や時間割まで手に取るようにわかる「しおり」をわざわざ本人用と留守家庭用に2部も渡されていたのだ。ちなみにそのキャンプは2泊だったけど・・。


私は当然のこととして息子の荷物は1つにまとめ、息子が背負えるように大きなリュックに荷造りしたが、どうしても全部は入らない。あたりまえだ!12日分なんて!というわけで、適当に1週間分くらいの着替えをいれ、小遣いも適当に渡しておいた。「困ったら先生にいって貸してもらいなさい!」といいおいて。


何しろ買い物と荷造りで私は疲れてしまったのだ。だが、当日、集合場所に行ってみると子供達はリックの他にスーツケースを持ってきていたり、大きなスポーツバックあり、まったくのてんでんばらばら・・「こんな荷物を子供が持てるのか?」とモニトールに聞くと

「だいじょうぶですよ。荷物はバスが運んでくれるんですから」という答えだった。
私は「自分の荷物は責任を持って自分で持つ」という日本式の考えでいたのだが、確かにここはスペインだったし、子供はキャンプを『楽しみに』行くのであって苦労しに行くわけではなかった。

さて、今年も親と子供一緒の説明会があり、簡単なプリントが渡され、口頭で持ち物や簡単な注意がモニトールからあった。親から質問というか意見がでて、たいしたことでもないのにケンケンゴウゴウ・・というスペイン風集会になり、1時間ほどで解散になる。今年は昨年も参加した子ばかりだったので、その割にあっさりと終わった。

去年のキャンプは北部のガリシア地方にあるサリアという町だったので、車に酔う傾向のある息子は長時間のバスの旅に参ってしまったようだ。が、今年はマドリッドの近くにあるトレドなので1時間ほどで到着する。昨年の経験があるので、荷物作りもスムーズだったし、私も息子も気楽なものだ。


ところが、1週間後に無事帰ってきた息子を見て私はびっくりしてしまった。

汚れと日焼けが混じったと思われる真っ黒な顔・・唇はがさがさにささくれている。髪の毛もぼうぼうで頭を洗わないで過ごしたことは一目見ればわかった。

実は、疲れて帰ってくるだろう息子を近くのテラスでジュースでも飲ませてから帰ろうと思っていたのだが、私は直ちに息子を連れてタクシーで帰った。それくらい汚かったのだ。

が、一緒にいった子供達もみな同じ様子だったので、内心、ほっとしていたのも確かだ。こんな汚い息子達でもスペインのママ達は「お帰り、さみしかったわ」とぶちゅぶちゅキスをする。私は気持ちは同じでも、日本人なのでやめておいた。本当はバッチかったからだけど。