遠足

 5月15日はサン・イシドロといわれる聖人のお祭りなので、
この日を挟んでマドリッドでは色々な催し物がおこなわれる。
全国の有名な闘牛士による闘牛、劇場での劇やダンスの公演、
オペラや音楽会などだ。

息子の学校ではサン・ペドロ・ノラスコという聖人が学校の守護神で、
5月13日がその聖人の日に当たっている。
そこで14日が遠足、15日はサン・イシドロ(マドリッドの祭日)で休み、
16日は学校のお祭りだった。そういえばあと1ヶ月ちょっとで
今学期は終わり、長−い(親にとっては)夏休みに入る。
6月になれば短縮授業になるし、もう夏休みは近いぞーという乗りだ。
それで今回は、まず遠足のお話しから。

遠足のちょうど1週間前、学校から帰った息子が
小さな紙をひらひらさせながら言った『ママ、遠足だって』。
その約5cm× 20cm四方の紙には「5月14日 牧場へ遠足」と
書いてあり、交通費・食事代込みでいくらという費用、集合時間と場所、
帰着時間とが書いてあった。

一番下に親のサインをする欄があり、参加の場合は費用を添えて
サインをした紙を先生に提出すれば良い。
ただし、控えがあるわけではなく、お知らせはそれだけなので、
忘れないように時間と集合場所など必要事項をメモっておかなくては
ならない。もちろんどこのどういった牧場か等ということも書いてはいない。
今回は食事付と書いてあったのだが、私は『じゃ、飲み物はどうするんだ。
おやつはいらないのか』と思ったが「そうだ。ここはスペインだったっけ」
と思い出してほって置くことにした。

去年の今ごろも、やはり遠足があり、学校に入ったばかりの息子は
言葉もわからずどこに行くのかも知らずにバスで遠足に行った。
そのときは「お弁当を持って来ること」とあったので、
知人の日本人でお子さんのいる人にスペインの遠足のお弁当について
聞いた。
11歳のお嬢さんは「ボッカディージョ(フランスパンを
うんと硬くしたようなパンにハムやチーズなど惣菜をはさんだもの)と
ポテトチップ、飲み物は1.5Lのコカ・コーラかな。」と教えてくれた。
息子はスペインに来たばかりで食事になれていないのと、
日本にいるときから日本食党だったのでおにぎりとも思ったが、
はじめての遠足でもあり、無難にサンドイッチと水筒に冷たい水(
息子はコーラが飲めない)、ポテトチップを持たせた。
だっておにぎりなんて持っていって、学校中に驚かれても
かわいそうですものね。
その日、息子はちゃんとリュックにお弁当を入れて出かけたが、
生徒の中にはお弁当入りのスーパーの袋をぶら下げている・・
なんて子も結構いた。

さて、今年は荷物も無く、学校からは帽子を忘れないように
言われていたので、帽子をかぶった息子と集合場所に行ってみると、
生徒に先生、その上に親も混じって大騒ぎだった。
なにしろ幼稚園から6年生まで生徒全員で遠足に行くので、
その騒ぎは半端じゃない。
日本だったら先生が生徒を整列させて、点呼して・・とやりそうだが、
スペインじゃそんなことはしない。
先生自身も『バスがこない』だの何だのと大騒ぎなので、
生徒にかまっちゃいられないのだ。

それでも、まず一台目のバスが上級生を乗せて出発した。
その後、二台目、三台目のバスがいいかげん待ちくたびれた頃に
到着したのだが、それからがもっと大変だった。
なにしろ5・6年生以外の生徒たち全員をバスに乗せなくては
ならないのだが、先生達はまったく割り振りをしていなかったらしく、
自分の担任する生徒たちを金魚の糞のように従えて、
2台のバスをあっちこっちと渡り歩き、すでにバスに乗せてしまった先生は
「こっちはあと○○人しか乗れないわよー」などと叫んでいる。

そうこうしている内に、どうやら生徒全員がバスに乗り、
やっとのことで遠足に出発していった。約1時間の遅れ・・。
本当にいいかげんである。
もし日本でこんな事があったら、親が黙っていないだろうが、
こっちの親は気にすることも無くぺちゃくちゃとおしゃべりに興じていた。

さて、その遠足の帰り。
到着時刻の5時にその場所に行って見ると、バスは当然のように
まだ着いていなかった。
ぽつぽつと小雨の振る中、待つこと1時間半、6時半にやっと
バスは到着し、特に何の挨拶も無くその場で解散となった。
帰り道、息子は元気に遠足のことを話してくれた。

その日は馬に乗せてもらったり、パンを作ったり、子供用の遊具で
遊んだりして楽しく過ごしたようだ。
ついでに岩塩で作ったトイレの消臭剤をお土産に持って帰ってきた。
これも牧場で作ったのだそうだ。三色に色づけされた岩塩は、
家のトイレに飾ってある。
マドリッドの郊外には、こういった学校用の『牧場』がいくつかあり、
マドリッドの小学生達はよくそこに遠足に行くらしい。
きっと「牧場へ遠足」と書いてあるだけでスペイン人は
「ははぁ」とわかるのかもしれない。

ところで息子が言うことには5・6年生のうち、朝の大騒ぎで
乗り遅れたのか、置いていかれたのか本来の遠足に参加できなかった
子達がいたらしい。
その子達はお弁当を持って、息子達に混じって一緒に牧場に
行ったそうだが、その後、誰からも苦情はでず、無事に帰って来た。
こんな時、私は日本の遠足とはだいぶ違うなーと思う。
要するに、子供が楽しく過ごして無事に帰ってくれば、何の文句も
無いのだ。本来がいいかげんな私は、このスペイン方式が
なんとなく気に入っている。
そして、のんびりした性格の息子にも合っているように感じる。