息子のスペイン語

この間、息子の学校から呼び出しを食ってしまった。
自分が学生のころは思い当たるふしがあるので、
開き直っていたが、いざ親の立
場になると胃が痛くなる。
今更ながら「その節はお世話になりました」と親にいわ
なくては・・。

「いったいどうしたのだろう。それに、スペイン語で話を聞いても
私に理解でき
るだろうか」と不安に思いつつ手書きの呼び出し状を
眺めていると、どうも「息
子のスペイン語について」話たいということらしい。

息子は5月から学校に通い
はじめていたが、
スペインは6月20日から9月半ばまで夏休み。
私は仕事をは
じめたばかりで休みが取れず、たまたま日本に
夏休みで帰省する知人がいたので
息子を連れて帰ってもらった。
そんなわけで長い夏休みの間、息子は日本で暮らしていた。
さて、戻ってきてみ
るとわずかに覚えたスペイン語もぜーんぶ
忘却の彼方。「これではまずい・・」
とスペイン人の家庭教師を探して
家でも勉強し始めたばかりだった。先生は、5
0代のスペイン人で
ご主人が日本人、大学生のお子さんが2人いる肝っ玉母さん
だ。
なんでも上の息子さんが8歳のときに仕事野都合で日本に行くことになり、

子供達の日本語習得では苦労したそうだ。

はじめてあった時に、私が「スペイン語を教えてもらいたいのは、
私ではなくて
9歳の息子です」と言うと、ちょっと驚いたようだったが
「実は私も同じ苦労を
したのよ」と言って引きうけてくれたのだ。
実はこの家庭教師探しも私にとって
は結構大変だった。

まずは近場からと、ゴマンとある語学学校に行ってみた。
が、どこも大人向けの
メソッドしかなく、もしどうしてもと言うのなら
個人レッスンを受けるしかない
という。
個人レッスン自体も高額だが、内容についても学校側も不安があるようだった。
仕方なく、今度は個人の「スペイン語おしえます」に軒並み連絡を取ってみた。
これも、みな相手が子供と聞くと及び腰になってきてしまうので、
私もあきらめ
た。

そんなときに、偶然このセニョーラと出会うことができて、
私は万策尽きた思い
で『スペイン語を習いたい』と誰が、というところは
ぼかして頼み込んだのだっ
た。
私はこの息子の家庭教師に相談して一緒に学校に行って貰う事にした。
セニョーラは「任せて!」と胸を張って言った。

呼び出しの日、家庭教師が先陣を切って私は御付・・と言う風体で
学校に行って
みると
担任のほか総勢3人の先生が待ち構えていた。
内容はやはり息子のスペイン語学習について・・ということだった。

息子の学校では外国人の生徒がいると週に1、2時間は
スペイン語の基本勉強を
させ、他の授業はその学年のクラスで
一緒に授業を受けている。

ただ、息子の学校は外国人といっても南米系の子か
フィリピンの子達で、みな言
葉は違ってもアルファベットを使える。
その上、南米系の子達は母国語がスペイ
ン語なので学習の進度や
細かい言いまわし以外はなんの問題も無い。
また、フィ
リピンではスペイン語と似た単語も多く使われているし、
書くほうはアルファ
ベットなので比較的早くに理解するようになるようだ。

スペインに来たばかりのころ、どの人達も「だいじょうぶよ!!
子供は言葉に慣
れるのは早いんだから心配無い、心配無い」
と言ってくれた。根が楽天的な私は
「なーんだ、そうか」と思い、
余り気にしていなかった。確かにそう言う部分も
あるだろうが、
子供の年齢や性格によってだいぶ差があることを
今更ながら知る
ことになった。

なにしろ、息子はまったくの日本語の中で育ち、9歳なので
母国語の基礎は日本
語になってしまっている。
その上、ローマ字や英語はまだ勉強していないので

「スペイン語の読みは、結構ローマ字読みで通じる」
なんて事も理解できない。

したがって学校では息子はスペイン語がわからない、
先生は日本語がわからない
・・というので双方のコミュニケーションが
とれず、担任達はどうやったら彼の
ためになるのかわからず悩んでいたのだ。

たとえば息子は日本語で「頭が痛いとスペイン語で言ってみて。」
といわれると
ちゃんとしゃべれる。
でもスペイン語で聞かれると質問がわからない。
で、ます
ます自信がなくなり黙ってしまう。

息子は、どちらかと言うと、のんびりしてい
ておしゃべりなタイプではない。
つまりはおとなしい性格なので、黙っていると
先生達は息子が
まったくスペイン語を理解していないと思いこむ・・という悪循
環。
その上、クラスのある時はスペイン語の授業について行けないので
ぼんやりして
過ごしている。なんてかわいそうなの!」という。
実は、日本でも私が授業参観に行くと息子は一人、頬づえをついて
楽しそうな顔
をしながらぼんやりしているのを何回も目撃した私は
「うっ、」と詰まってし
まったが。

また、学校では息子のために1週間に2時間ほど先生を
特別にあてがっていてくれ
た。
これが小柄ですごーく可愛いい先生・・・なのに彼はいつも
距離をおいて座った
りしてなつかない・・というより照れていた。
可愛い先生は「私のことが嫌いな
のか」と悩んでいた。

家庭教師のセニョーラが積極的に話してくれたおかげで、
学校側と双方の誤解を
解くことができて一安心した。
面白かったのは、担任の英語の先生が
「彼はなぜあんなに英語ができるのに、ア
ルファベットは知らないのか」
と言うのだ。

私が「息子はいままで英語を勉強し
たことは1度もないし、
日本では中学校にならないと英語は勉強しない」というと

「信じられない!だって悠は3年生のときに食べ物の名前を
すべて英語で知ってい
た。クッキーだってキャンディーだって。」という。
「悠が日本で少しでも英語
を学んだと言えるのなら、
テレビのセサミ・ストリートを見ていたくらいだ」と
いうと、
すかさず家庭教師が「悠はとても頭が良いのよ。スペイン語だって
理解
しだしたら早いし、私が教えてからだってあっという間に覚えた」
と助け舟を出
してくれたので、私は「本当はちょっとちがうんだけどなー」
と思いつつ黙ってい
た。なにしろ日本にはカタカナがあるし、
発音は別として和製英語は氾濫してい
るからだと思うけれど。

最後に学校側が「どのくらいでスペイン語を理解するようになるだろうか?」
と聞
くと、 やる気の家庭教師は「6ヶ月」と答えていた。
ほんとかー。私は正直にいって
ちょっと不安になった。
それから、約1ヶ月・・息子は意味は別としてスペイン
語が
読めるようになった。発音はスペイン人と変わらない。
巻舌の発音なんて何
度教えてもらっても私にはできない。

そして息子は時々言う。

「なんか日本語忘れたみたい」