ド素人のための能入門講座

「お能」と聞くと、多くの人は、
「ああ、なんだかわけのわからない歌が聞こえてきて、
お面をかぶって、ひたすら静静と歩いている、
眠くなりそうなやつね」と思うのではないでしょうか。

実は、私も習い始めるまで、そう思っていました。
でも、習い始めてビックリ!
お能は、なかなか奥深くて面白いものです。
習いはじめたばかりの私が解説するのも
おこがましいのですが、「全然お能を知らない人間は、
なにがわかってないのかということ」は逆に、
まったく知らなかった人間の方がよくわかるような気がします。
お能がちょっと身近に感じられるド素人向けの解説です。
お能はミュージカルだ!
お能は平たく言ってしまえば、古きよき時代のミュージカルです。
ちょっと、「美女と野獣」「レ・ミゼラブル」などのミュージカルを
思い出してみてください。物語は、歌になったセリフがあったり、
歌にあわせてダンスをしたりしながら、お芝居が進んでいきますよね。

お能も同じです。セリフには謡がついています。
そして、お芝居が中心で物語が進行する部分、舞(ダンス)が
見せ場になる部分があります。
ストーリー展開
お能のストーリー展開は、ワンパターンなものが多いものです。
なので、パターンを知っているだけでも、少しは理解できます。

まず、前半の物語では、最初に脇役(ワキ)が出てきます。そして、
「私はOO国の誰じゃ。これから、**に行こうと思う」
と言って、舞台を歩きます。
すると、便利なことに、その場所に到着するんですね。
すると、主役(前シテ)が出てきて、
「私は、この里に住む者です。実は、ここはいわれのある場所なんですよ」
と、その場所のいわれ話などを、脇役に話して立ち去ります
ここまでが、前半です。

前半が終わると、コマーシャルのように解説が入ります。
「間狂言」の人が出てきて、
「今の里の人は、なんとかの亡霊(神様、きつね、天狗など)が、
人に姿を変えて出てきたんだよ」などと、解説をしてくれます。

解説が終わると、物語の後半に入ります。
主役(後シテ)が装いを新たに出てきて、
「私は、なんとかの亡霊です。実は、昔、こんなことがありました」
と、謡と囃子に合わせて、昔語りの舞を舞って、物語は終わり。
・ ・・・・というのが典型的なパターンです。

パターンから外れるものもありますが、
このパターンを知っているだけで、楽しくお能が見れるかもしれません?!
お能は実物に限る!
舞台を見にいって、感激してビデオを買って、見なおしたとき、
「あの時、あんなに感動したのに、ビデオになったら、
なんだか、感激が薄いわ」
と思ったこと、ありませんか? 
舞台って、ビデオには収めきれない、その人の持っている
生のエネルギーとか、感じられますよね。

お能って、まさに、舞台でしか見られないエネルギーの
ようなものを究極に味わう芸能なんじゃないかなあと、
私は思います。とくに、静静とした曲ほど、生の舞台では
なんともいえない雰囲気があるのに、ビデオになるとつまらない! 
だから、なるべくお能を見るなら、ライブがいいです。
ライブならではの、情感を味わってくださいね。
初心者は演目を選ぼう!
初めてお能を見に行くときは、なるべく演目を選んで
見にいったほうが無難だと思います。
お能は、実は、静静としたものばかりではなく、
飛んだり跳ねたり、スペクタクルな演出がいろいろある
面白い演目もたくさんあります。

こういう演目を見ると、
「えー、お能って、こんな激しいものもあるの?」
とビックリするかもしれません。
静かなものは退屈という人は、ぜひ、スペクタクルで、
元気な内容のものから、まずはチャレンジしてくださいね。
習い事としてのお能
よく、「お能を習うって、どんな風に習うの? 面をつけて練習するの?」
と聞かれます。いえいえ、面をつけて舞台で舞うのは、
プロ、あるいは素人でもかなり上級者の限られた人だけです。

習い事としてのお能は、「謡」と「舞」があります。
「謡」は、ようするにミュージカルでいえば、歌を習うのと一緒ですね。
「舞」はミュージカルでいえば、ハイライトのダンスシーンで
踊られるナンバーを習うと思っていただければ結構です。
ただ、ミュージカルのダンスでも、音楽のみに合わせて踊る、
歌にあわせて踊るなど、いろいろなパターンがありますよね。
「舞」も同じです。お囃子に合わせて舞うもの、
謡に合わせて舞うものがありますが、一番基本になるのは
「謡」に合わせて舞う「仕舞」です。
さらに、お囃子と謡がついて踊られるものは「舞囃子」と呼ばれています。

いずれにしても、「舞」を学ぶためには、謡がわからないと
ちゃんとは舞えないので、舞だけを習うということは、
カルチャーセンター以外では、あまり、ないようです。

ちなみに、お能の発表会などの時には、
「謡」「仕舞」「舞囃子」の発表では、面や衣装はつけません。
紋付袴、もしくは、普通の着物に袴、曲によっては女性なら
着流しで舞う場合もあります。
「衣装を着てないなんてつまんな―い」
と思うかもしれませんが、どうしてどうして……。
紋付袴の方が、ごまかしがきかない分、
その人の真の舞の力量がわかってとても面白いもんです。
舞手の性格もよく見えるし……。

ぜひ、みなさんも、一度能楽堂に遊びにいらしてくださいね。