ひのき舞台ものぐさつづり帖
その4


男子校出身?
お能の謡いのお稽古で、「吉野天人」という曲を練習した。
この曲は、吉野の山の満開の桜に惹かれて天人が降りてきて、楽しそうに天女の舞を舞う・・・・という、すごくきれいな曲だ。

ひとしきり、練習が終わった後、T先生は穏やかな笑みをたたえながら、おもむろにこんな風に話し出した。
 「私は、中学高校は、男子校だったんですが・・・・。
その学校の国語の先生で、すごく丁寧で、やわらかで、男子校にそぐわない話し方をする国語の先生がいて、名物になってたんですね・・・・。男の人でも、長く女子高にいると、そういう雰囲気が身につくものです。
ところで……森津さんの謡いは、どうも男子校あがりですねぇ……。まあ、弁慶とか、天狗のときには、きびきびとして、かっこいいねということになりますが、この曲は、天人ですからねぇ……。
もう少し、芸に、いろいろな引出しがあると、
 「おお、この人にはこういう人だと思ってたけど、こういう一面もあるんだ」
ということになるでしょう?
それに、パーティにいくときに、Gパンでいくようでは困りますよね。きれいなドレスを着ていかなくちゃね。TPOに合わせて、洋服を選ぶように、謡いも謡えた方がいいですね―」ですって……。

パーティにさすがにGパンははいてかないけれど、しわくちゃのドレスで出かけそうな私だし……。
T先生、さすが、鋭い、突っ込み!
仕方なく、私は、
「せめて、女子高に通えるようになるよう、努力します・・・・」
と、答えたのでした。

もちろん、他の生徒さん達が、この会話を聞いていて、腹を抱えて大爆笑していたのは、いうまでもありません……。

あー、また、女から、一歩遠ざかってしまった……。

取材

先日、「クロワッサン」の取材を受けた。
なんでも、各界の人たちの趣味を聞くページで、ごたいそうにも、
「死ぬまで続ける趣味」という題名がついているのだそうだ。
取材してもらうなら、フラメンコか、お能なんだけれど、
最近とんとフラメンコの練習をサボっているので、お能を
取材してもらうことにした。

ついでに、「わーい、T先生とツーショットのお稽古写真を
撮ってもらえる!ラッキー!」という下心もあったことは、
いうまでもない。

ところで、私はクロワッサンの取材を受けるのは、
3回目だったので、あまり、細かいことは気にせず、
普段のありのままの姿を撮ってもらえばいいや、と気楽に
考えていた。
しかし、周りの人たちは、そんな私を見て、大慌て! 

まずは、先生が、
「ちゃんと襟のある着物を着てきなさい!」
と、おっしゃる。でも、私はわけわからず、
『襟のない着物なんて、あるのかしらん?何を着ればいいの?』
と、「???」という顔をしていたら、すかさず、Aさんが、
「ゆかたじゃなくて、普通のきものを着なさいってことよ!」
と、教えてくれる。ついでに、Bさんは、
「袴も、いいものを持ってこなくちゃダメよ」と、のたまう。
さらに、Cさんも、
「髪の毛も、そんなぼさぼさじゃなく、ちゃんとアップにしてねっ!」
と、アドバイスしてくれる。私は、なるほど―、と思いながら、
「よかったー、みんながいるときに話をして―。
私一人だったら、なにも気にせず、いつも通り、
ゆかたに練習用の袴で、取材を受けてたよー」
と、のほほーんといったら、先生からとどめの一発が!
「あなたの袴は、短すぎるんですっ!」

後日、この話をメールで、スペインにいった元秘書の
北村に話したら、
「やっぱりね―、お能に興味が移っても、やってることは、
フラメンコのときと一緒だったわけですね―。
なんだか、先生の様子が目に浮かぶわー。
先生、きっちりすれば、結構見られるんですから、
お願いだから、当日は、きれいにしていってくださいねっ!」
とさらに、アドバイスをもらった。

本当に、こういう面に関しては、全く無頓着な私である。

でも、そんなこんなで、無事取材は終了。
取材にきた記者さんは、すっかり、取材目的はどこへやら、
T先生のかっこいい舞姿に惚れこんで、興奮の面持ちでかえっていかれた。 

 一方、私は、
「撮った写真、現像した分だけでいいですから、分けてください!」
と、しっかり、カメラマンさんに、おねだりするのに余念が
なかったのは言うまでもない。

どんな記事と写真ができあがってくるのやら、楽しみなような、
不安なような…。
ちなみに、掲載は9月1日発売号の予定です。
興味のある人は見てみてね。