お能の謡いのお稽古で、「吉野天人」という曲を練習した。
この曲は、吉野の山の満開の桜に惹かれて天人が降りてきて、楽しそうに天女の舞を舞う・・・・という、すごくきれいな曲だ。
ひとしきり、練習が終わった後、T先生は穏やかな笑みをたたえながら、おもむろにこんな風に話し出した。
「私は、中学高校は、男子校だったんですが・・・・。
その学校の国語の先生で、すごく丁寧で、やわらかで、男子校にそぐわない話し方をする国語の先生がいて、名物になってたんですね・・・・。男の人でも、長く女子高にいると、そういう雰囲気が身につくものです。
ところで……森津さんの謡いは、どうも男子校あがりですねぇ……。まあ、弁慶とか、天狗のときには、きびきびとして、かっこいいねということになりますが、この曲は、天人ですからねぇ……。
もう少し、芸に、いろいろな引出しがあると、
「おお、この人にはこういう人だと思ってたけど、こういう一面もあるんだ」
ということになるでしょう?
それに、パーティにいくときに、Gパンでいくようでは困りますよね。きれいなドレスを着ていかなくちゃね。TPOに合わせて、洋服を選ぶように、謡いも謡えた方がいいですね―」ですって……。
パーティにさすがにGパンははいてかないけれど、しわくちゃのドレスで出かけそうな私だし……。
T先生、さすが、鋭い、突っ込み!
仕方なく、私は、
「せめて、女子高に通えるようになるよう、努力します・・・・」
と、答えたのでした。
もちろん、他の生徒さん達が、この会話を聞いていて、腹を抱えて大爆笑していたのは、いうまでもありません……。
あー、また、女から、一歩遠ざかってしまった……。
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